コイスルオトコノコ



 春休みになってから程なく、佐助は幸村と共に彼の郷里に行く事になった。それを、かすがに言ったところ「お弁当くらいは作っていけ」と忠告を受けた。
 言うまでも無く、大食漢の幸村のためにあれこれと作っていくつもりだった佐助だが、余計に力を入れて行った。
 迎えに来た幸村に、前日詰め込んだリュックサックを背負い、手には紙袋を持って駆け寄る。すると幸村は大きな手で頭をなでると、自転車の後ろに乗せてくれた。

「すまぬな、某、免許は取ったものの、バイクも車も持っておらず」
「いいの、いいの。俺様、自転車嫌いじゃないし」

 駅前の、幸村の友人の家に自転車を預け、一緒に改札を抜ける。共に歩くたびに、幸村よりもかなり小さい佐助を気にして、幸村が手を伸ばしてくれる。

「ぶつかるぞ、佐助」
「大丈夫だよ。それより旦那の方が危なっかしいって」
「言うてくれたな?」

 電車に乗り込みながら、そんな話をすると幸村はにやりと笑い、電車が到着するなり佐助を小脇に抱えて走り出した。

 ――急に子どもっぽいことするんだから!

 楽しそうに駆け巡る幸村に、佐助もきゃっきゃと声を上げていく。ばたばた走り回る二人に、周囲からしたら兄弟にしか見えなかったかもしれない。だが佐助にとっては好きな人との旅行だ――心が弾まない筈は無かった。
 新幹線に乗り込んで最初に佐助は、ずい、と幸村に持って来た紙袋を差し出した。

「お腹、空いてない?あのね、一杯作ってきたんだ」
「なんと…!これを佐助一人でか?」
「うん。あ、でもデザートのミルク寒は母さんが作ってくれたヤツ。俺様、上手く作れなくて」
「おおおお、忝いッ!」

 前の座席から簡易ツールを引き出して、其処にお弁当を拡げる。お弁当と言っても二人分を考えて、使い捨ての容器に煮物や卵焼き、マカロニサラダなどがびっしりと入っている。おにぎりは、鮭と梅干を――それから季節の果物として苺を持ってきていた。
 おにぎりは佐助の手で作ったこともあり、大きさは小さい。それでも佐助の手からしたら一回りは大きく、丸と三角に作られていた。
 幸村が掌にその二つを載せて、やんわりと微笑んだのには、佐助は気付けなかった。持って来たお弁当をせっせと取り分けていた。佐助から取り分けられたおかずを受け取り、幸村はぱくりとそれらを口に入れた。
 幸村がもぐもぐと咀嚼をしている間、斜め下の位置から心配そうに碧色の瞳が見上げてきていた。

「どう?美味しいかなぁ?」
「うううううまいッ!佐助は器用だなぁ」
「良かったぁ。まだまだあるからねッ」

 幸村の笑顔に釣られる様にして佐助が微笑むと、ほんわりと子どもならではの頬のふくらみが出来る。幸村はそんな佐助を愛しく見るように瞳を眇めてみていた。途中で買ったお茶のキャップを外しながら、佐助もまた一緒に弁当をつつく。程よくおなかも満たされた処で、横から――というよりも、佐助の頭の上から幸村に呼ばれた。

「佐助」
「ん?」
「ほれ、口を開けい」

 ――とん。

 言われるままに口を開くと、其処に甘酸っぱい果実が放り込まれる。大きな苺は、佐助の口に入りきらずに、ヘタの部分を持って齧った。すると幸村もまた苺を齧りつつ、にっこりと横から見詰めてくる。

「苺、好きだろう?」
「うん…美味しい」

 ぱく、と苺を齧ると、じゅわ、と甘酸っぱい果汁が染みてくる。それを口いっぱいに感じながら、佐助は少しだけ肩を幸村に寄せていった。
 寄りかかる佐助を肩に感じながら、幸村は食べ終えた容器を片付ける。佐助には手を出させずに片付けながら、ふう、と溜息をついて幸村が自分の腹を撫でていた。

「何だかな…これで両親に挨拶となると」
「えッ!」
「――…」

 肩に寄りかかっていた佐助が身を起す。背中に熱が篭ってくるのが解った。しかし身体を起こしてみれば、幸村は瞼を落としていた。その変わり様にがっくりと項垂れてしまうのは仕方ない。

「旦那?――寝ちゃった?」

 すう、と静かな寝息が聞えて、佐助は辺りをきょろきょろと見回した。そして再び幸村に寄りかかると、彼の腹の上の手に、自分の手を重ねてみた。

「だぁんな。俺様、楽しみなんだよ?」

 小さな佐助の呟きが聞えたかは定かではない。だけど、重ねた手に少しだけ動きがあったような気がした。そのまま目的の駅まで、ひと時の食休みをしていった。










 幸村の実家には少しだけ顔を出す程度で、いつの間にか幸村が取ってくれていた温泉旅館に向った。それよりも幸村の実家の風体――古めかしい門構えを有した、日本家屋だった――に圧倒されながらも、よろよろと佐助は彼についていった。
 温泉旅館では、早々に幸村がテーブルの上の茶菓子を食べてしまうのを横目で見つつ、子供用の浴衣を手にそわそわしてしまう。佐助にとって温泉など久々だった。

「どれ背中を流してやろうか」
「えッ!いいよ、俺様が旦那の背中ながすよ」
「そう遠慮するな。早く行って見たいのだろう?」

 足をぐんと伸ばしていた幸村が、すっくと立ち上がり、自分の浴衣を手にする。そして先程から浴衣を抱き締めていた佐助の頭をくしゃりと撫でた。

 ――がばっ。

「――――…ッ」

 佐助が顔を起こそうとした瞬間、目の前で幸村が急に服を脱ぎだす。何事かと吃驚していると、お前も早く着替えろ、と云われてしまう。佐助もまたのそのそと着替え始めた。そして今穿いているカーゴパンツのウエストに手を掛けて、ふと出発前のかすがの言葉を思い出してしまう。

 ――半ズボンだ!生足で誘惑するんだッ!

 かすがは真面目な顔でそんな事を言ってきた。だが流石に半ズボンなど穿けるはずも無い。

 ――ガキじゃあるまいし、恥ずかしいっての!

 充分子どもだが、佐助はそんな風に思っていた。しかし、ちらりと足首だけは覗かせているあたり、少しだけかすがの励ましを採用しているといえばそうだ。

 ――でも旦那には全然…俺様、ただの近所のガキだしなぁ。

 彼の側にいたいとか、好きだとか、そんな風に思っているのは多分自分だけなのだろう。ほのかな恋心をぎゅうと抱き締めながら、佐助はてきぱきと支度をした。

「ん?あれ…ええと」
「どうした?」
「旦那ぁ、帯ってどうするの?」

 浴衣など日常的に着たことのないものだ。小首を傾げると、幸村はくすくすと口の中で笑うと、佐助の小さな手から帯を取り、屈んだ。幸村の頭頂部をじっと見ながら、両手を横に広げる。このまま彼を抱き締めるだけの体格が自分にあれば、と思わずには居られない。どきどきと胸を高鳴らせながら佐助は幸村の長い睫毛を見下ろした。

 ――きゅっ。

 帯がウェストできっちりと結ばれる。後ろにひらひらとする蝶々結びをされているのだが、幸村に「ありがとう」と小さく告げた。そしてそのまま一気に目当ての風呂場へと直行して行った。
 風呂場には人影も疎らにあり、湯が注がれる音と湯煙が立ち込めていた。佐助はその光景に表情を明るくして、ぱたぱたと湯桶を手にして身体を洗い始める。

「大きいお風呂っていいねぇ、旦那ぁ」
「そうであろう?佐助、背を流してやろう」

 横からタオルを泡立てた幸村が細い佐助の肩に手を掛ける。佐助はくるんと背中を向けると、自分もタオルを石鹸で泡立て始めた。

「次は俺様が旦那の背中を流すからね」
「そうしてもらおうか」
「うん、任せておいて!」

 しゅわしゅわと泡立つタオルを手に、くるりと身体を返す。すると幸村も気付いて背中を見せた。座っていると肩までは手が届かない。佐助は立ち上がりながら、ごしごしと幸村の背中を流し始めた。

 ――綺麗な背中だなぁ。

 自分の父親の背中や同級生の背と比べて、じっと魅入ってしまう。
 幸村の背中には程よく筋肉が付いており、其処に肩甲骨が見える。無駄のない背の様子に、石鹸の泡越しに触れてみると弾力が心地よい。

「ふふ…佐助ぇ、擽ったいぞ」
「わ、ごめん。ってか、旦那、髪長いよね」
「ああ…纏めやすいからな。洗うのは面倒だが」
「へぇ?」

 ぼんやりと見入っていた視線を反らして、ごしごしと洗い続け、シャワーで流す。自分も泡だらけになっていた佐助は、自分のほうにもシャワーで泡を流していった。
 そのまま、幸村と先を争って湯船に浸かり、顎先まで入る。指先も足先もじんわりとした熱を受けて痺れたようだった。

「ふ、ぁぁ〜、気持いいぃぃぃ」
「まっこと、温泉は良いものだなぁ」

 両足を同じように投げ出して、壁面に並ぶ。当然足の長さも違うし、太さも違う。幸村の半分くらいしかない自分の足を見詰めてしまった。そして佐助は横目でそのまま幸村の足先からを舐めるように見詰めてしまう。湯の中に入る時には取ってしまったせいで、よく見えてしまう――股間にまで目が行った。

 ――じっ。

「大人…」

 ごく、と咽喉を鳴らしながら見入ってしまっていると、幸村も気付いて笑った。湯の影になり、ゆらゆらとしているように見えるが自分のものとは明らかに違う。
 だが同じように幸村も悪戯っ子の顔になって佐助のほうへ首を伸ばしてきた。

「それはそうだろう。しかし佐助は…」
「あ」

 ――じっ。

 誘導されるように自分のを見下ろし、かあ、と頬が熱くなる。すると頭上で幸村が佐助の頭に手を置いて、ははは、と大きく笑った。

「まだまだ子どもだな」
「そんなことないもんッ!」

 がば、と自分の股間を足を寄せて隠す。真っ赤な顔で横の幸村を睨み付けた。だが幸村はくつくつと肩を揺らして笑いを堪えていた。

「ムキになるな、成長すればいずれ」
「男は膨張率が命だもんッ」
「それにしても…小さいな」
「旦那の馬鹿ああああああ!」

 ――ばっしゃあああああん。

 恥ずかしさ一杯で、思い切り幸村に向って湯をかける。すると幸村もまた水鉄砲をつかって佐助に攻撃した。

「ぬ、やりおったなッ!」
「うわあああん、いつか旦那をなかしてやるんだからぁぁ」
「おう、挑んで参れッ!」

 ――ばしゃばしゃばしゃっ。

 周囲の迷惑などお構い無しに湯を掛け捲り、へとへとになるまで温泉を堪能していった。










 今まで味わったことのない懐石料理の数々を食べた後、結局もう一回温泉に浸かってから布団に潜り込んだ。ごろんごろんと身体の向きを変えながら、幸村があれこれと聞いてくるのに答えていく。

「そろそろ寝るか」
「だーんな、そっちに入ってもいい?」
「うん?お前、一人で寝るのは怖いのか?」
「そんなんじゃないけどッ」
「嘘だ。いいぞ、おいで」

 くすくすと笑いながら幸村が布団を少しだけ捲ってくれる。其処に小さな身体を滑り込ませてから、彼の方へと近づいていった。すると幸村は横になり、肘を立てて佐助を覗き込んでくる。
 佐助は幸村の胸元に収まるように身体を寄せていく。幸村もまた心得ているようで引き寄せてくれる――だが其れを嫉妬を持って感じる程、まだ大人ではないあたり素直な子どもと言えるだろう。余計な勘ぐりはしていない佐助はただ好きな相手の側に居たいだけだった。

「暖かい…旦那って暖かいなぁ」
「そういうお前も子どもだな。温かいものだ」
「旦那…――」

 佐助は幸村の袂をぎゅっと握ると、彼のにおいを嗅ぐようにして鼻先を押し付けた。

 ――旦那の肌、温泉の匂いがする。

 当たり前だがそんな風に感じて、そして自分を取り巻く香りもまた同じものであることに、とくとくと小さく胸が鳴り出した。

 ――言って、みてもいいかな?

 礼だと言われていたが、こんな風に旅行に連れてきてくれるほど、自分を特別視してくれていると、そう信じたい。幸村の位置で、佐助の存在が大きくなって居てほしいと願わずにはいられない。期待せずにはいられない。
 佐助は、ぎゅう、と強く袂を握り締めてから、顔を起こさずに口を開いた。

「あのさ、旦那……てか、幸村、にいちゃん。いや、ええと…幸村、さん」
「どうした…?改まって」
「俺が…俺様が…もし、……」

 幸村の顔を見たい――でも見たくない。今、この優しい腕を手放すだけの勇気は自分にはない。だけど、訊いてみたくて仕方なかった。
 出会いは事故のようなもので、今時こんな出会いがあるなんて信じてもいなかった。それに見るからに生活力のない人で、しかも同じ男なのに、友達とか親とかに感じる気持とは全く別物の【好き】という気持ち。それは誰がなんと言おうと恋だと自分で気付いている。

 ――もし振られても、傷つけられるのが旦那なら構わない。

 それくらいに幸村が好きになっていた。その気持に間違いは無い。佐助は意を決して顔を起こした。目の前に優しく見下ろしてきている幸村が居る。

「もし、旦那を好きだと言ったら」
「俺も好きだぞ」
「そうじゃなくて、こういう意味で、好きだっていったら…」

 ――ぐい。

 幸村の袂をぐっと引き寄せて、彼の唇に自分の唇を押し当てる。キスなんてしたことはないものだから、押し付けるだけで精一杯だった。
 佐助は直ぐに離れると、再び彼の胸元に顔を埋めて隠してしまう。そっと幸村が自分の唇に指先を触れさせたことには気付けなかった。

「…まだお前には早い」

 頭上から聞えた声に、佐助は上半身を勢い良く起し、彼に迫る勢いで幸村の肩を布団の上に押し付けた。幸村の腰くらいまで剥がれた布団の上に、軽いとは解っていながらも自分の身体を乗せて錘にする。

「ちょ、真剣なんだけどッ!今の、俺様のファーストキスだしッ」
「俺だってそうだ」
「だったら、早いなんて…真剣なんだからねッ」
「だからッ!」

 がん、と強く幸村が声を荒げる。彼の強い声音に佐助は乗りあがったままで、びっくんと身体を震わせた。

「――……ッ」

 怒られる、嫌われる、と一瞬嫌なことばかりが脳裏を駆け巡った。だがそうではなく、幸村は困ったように眉根を寄せると、腕で目元を隠してしまった。そして小さな声で佐助に伝えてくる。

「だから、まだ戯言として受け取っておく」
「――…俺様、振られたの…かな?」

 幸村の言葉にすうと背中から血の気が失せていく。佐助は両手を拳にして握りこむと、俯いていった。しょんぼりと項垂れる華奢な肩に、がし、と強い腕が掛かる。
 何事かと瞳を見開くと、真下から幸村が肩を掴んできていた。そして暗い夜の部屋でも解るくらいに――触れている場所が熱くなっているのが解るくらいに、彼は顔を紅くしていた。

「そうではないッ。お前が、高校を卒業するまで待つ。だから…その時に気持が変わらねば」
「気持変わるのは旦那じゃないの?」
「変えぬ。故に、待っておるからなッ」

 疑い半分、気落ち半分で問うと、幸村は力いっぱいに宣言してくれる。だが目の前の彼に、お預けを喰らったも同然だ。今のままの、小学生と大学生と云う――仲の良い友人のようなこの関係を、まだまだ続けていくという宣言だ。
 それまでは佐助の恋心を知りながら、彼は知らない素振りで付き合うというのだろう。

「酷い男だな、あんたって」
「そうか?」

 幸村が「すまんな」と小さく言いながら、目にかかってきていた前髪を、そっと下から掬い上げてくれた。佐助は幸村の手を取ると、彼の掌に唇を付けた。
 掌に、ちゅ、と小さく押し付けるキスに、幸村の掌が力を失くす。

「でも、俺様があんたを好きなことは忘れないで」

 ――待ってて。

 身体を屈めて彼の耳元に囁いた。
 それと同時に幸村の強い腕に抱きとめられ、微かな失恋――というよりも保留の関係に、少しだけ涙を見せたのは内緒の話である。










 はらはらと桜が揺れる。今年は桜が咲くのが遅く、ようやくこの日にあわせて咲き始めたようだった。佐助は浮き足立ちながら、制服姿のままでとある部屋を目指していた。
 目的の部屋は大学の講師室だ。それも理学部のある場所の、奥の部屋にあたる場所だ。

 ――ガララッ!

「だーんなッ!」
「佐助か?どうした、その格好…」
「じゃーん、今日は卒業式だったのよ。それでね、約束果たしに来たよ」

 佐助は制服のポケットに挿された生花を指差しながら、卒業証書の入った筒を肩でとんとんと叩く。
 目の前にはこの部屋の主――幸村が、論文に取り掛かっている処だった。彼はいま此処で助手をしている。
 佐助は幸村の元にいくと、座っている彼の前で背筋を伸ばした。そして、深呼吸をしてから、大きな声で彼に告げた。

「俺は、真田幸村が好きです。ずっとずっと好きです」
「――…ッ」

 ぶわ、と幸村の鼻先から肌が紅潮していく。
 小学生だったあの日から、有に八年が経っている。約束どおりのこの日を向かえ、それでも彼を好きな気持は変わらなかった。
 此処に至るまで、小さな喧嘩も、誤解も、色々あった。楽しいことも、嬉しいことも沢山あった。でも一番側に居られる位置を得ることは、ずっとお預けだった。

 ――どうか。

 願うくらいしか出来ないけれど、佐助は自分の胸元に右手を当ててから、もう一度深呼吸して、幸村の前でずっと言いたかった告白を述べた。

「俺と、付き合ってくれますか?」
「ふ…」
「え?駄目?」

 くしゃ、と幸村の瞳が眇められる。そして苦笑するように彼の口元が動いたものだから、咄嗟に反応してしまった。だが次の瞬間、がたん、と椅子が倒れた。

「――…あ」

 スローモーションのように倒れる椅子を見て、そして伸びてきた彼の手に、思わず両手を広げてしまっていた。椅子の倒れた音の後に続いた彼の言葉に、世界が真っ白になる。

「愛している、くらい言え、馬鹿者」
「――――…ッ」

 腕に飛び込んできた幸村を、ゆるゆると抱き締める。あの小さかった時分には、広くて手を回すことも困難だった。でも今はこの両腕で幸村を――愛しい人を抱き締められる。
 佐助はその至福を感じながら、幸村の肩に頬を預けていった。

「うん、待ってくれてありがとう。旦那…」
「待ちくたびれた…」
「自分で言ったくせにね」
「そうだが…佐助、耳を貸せ」
「え…」

 お互いでお互いを抱き締めあいながら、そっと耳元に囁きあう。そして幸村の告白に、佐助は涙を浮かべながら微笑んでいった。






 帰り道で佐助が「四月から宜しくね、真田先生」と言った言葉に、複雑な顔で答えた幸村は、それでも繋いだ手を離したりはしなかった。









110408 up 半年位お待たせしてしまいました。るあ様のみお持ち帰り可です。