かごめかごめ



 ――考えるのも数えるにも、疲れた。

 どうして、と思わずにはいられない。佐助は両手首にきつく結ばれている縄目を見つめながら、視線だけを動かした。
 薄く射し込む光と、彼の訪れが無いことから、今が昼間だとわかる。

 ――俺を此処に閉じ込めて、どうしたいんだろうね。

 失笑しか浮かばないが、それさえも億劫だ。使わない筋肉は直ぐに衰えていくものだ――脱力感が否めない身体をただ、ごろごろと動かすだけだ。

 ――任務帰り・手首を拘束されて・此処に放り込まれて・でもその前に薬…?

 発端を思い出すとそんな単語が脳裏に羅列されていく。
 確かに此処に運び込まれる食事には、薬が仕込まれている。それは忍である佐助の舌には直ぐに判別がついた。そして直ぐに耐性もついてしまった。
 それ故に、薬に身体が慣れてからの時間を、こうして数えてみると、どうして、と思わざるを得ない。
 夜になると、ひたひた、と足音をさせて彼が来る。
 寝たふりをしていると、一度鼻先に手が掲げられる――たぶん呼吸を確かめているのだろう。そして、そっと唇を食まれる。

「佐助」

 小さな声。
 されるままになっていれば、彼は縄に拘束された手をそっと、自分の胸に当ててくる。

「さすけ…」

 甘い声。
 視界の端には、空になった膳がある。それを彼はちらりと見てから、呼びかけて、そして佐助の身体を弄り始める。あの膳の中には薬が入っていた――意識を散らし、そして記憶をあやふやにさせる、強い薬。そして媚薬。
 彼がどうやってこれを手に入れたのかは解らない。
 だが佐助に拒むことは出来なかった。

「ん…――ッ」

 切ない吐息を吐きながら、むき出しの胸元に吸い付き、そして佐助の雄を貪欲に口に含んだ姿を見つめながら、高められるままにされていく。口からもれる吐息を聞きとめて、彼がそっと自分に乗り上げてくる。

「佐助…今だけは」

 切なく呟く唇からは、濃い匂いがしている。情欲に塗れた行為なのにどこか切なそうだ。どうにかして彼の身体を支えて、そして共に――いや出来れば彼の中を掻き回して、乱れさせてやりたいのに、彼はそれをさせてくれない。

 ――だって、俺は知らなかった。

「ん…ッ、ぁ、あっ」

 ぐ、ぐ、と緩急をつけて無理矢理に己の後孔に、佐助の陰茎を咥えさせている彼が、自分に邪な感情を抱いていたなど、知らなかった。

 ――俺の方がずっと前から。

 ゆさゆさと揺れる身体と、しっとりと濡れてくる肌、そして体温。
 それがずっと欲しかったものなのに、彼から与えられるとは思ってもいなかった。

 ――ねえ、お願いだから。

 この手の戒めを解いてくれないだろうか。そしてこんな薬に溺れるように、閉じ込めるようにして重ねるのではなくて、正面から向き合わせてくれないだろうか。

「佐助…好きだ。だから…」
「――…ッ」
「何処にも、誰のものにも…」

 泣きそうな声で、胸元にしがみ付きながら、激しく腰を振る彼に、ただ口を噛み締めて演技をし続ける。

「佐助、さす…――っ」

 彼を抱き締められるのなら、閉じ込められるのなら、と考えていたことがないとは言えない。だから己からこの瞬間を解くのも躊躇われてしまう。でも、どうしても歯痒くてならない。

「さ…すけ」

 切ない幸村の声に、ただどうしようもなくなる。佐助は触れてくる彼の口唇に、甘噛みをしながら願うだけだった。

 ――好きだと、愛していると、言わせて。








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