春酔宴 春と言えども、朝晩は冷え込むものだ。素肌を晒したまま、幸村はのそりと起き上がった。胸元には、半裸になっている佐助が乗り上げている。 「散々期待させておいて…此れか」 「ううぅ〜ん」 口付けを繰り返して、胸元に触れられて、肌と肌が心地よく触れ合い、さあこれからという処で佐助が撃沈した。 それもその筈で、彼は泥酔しているのだ。時折元に戻るとはいえ、酔っていることには変わらない。身体の火照りをどうにかしようと、吐息を吐くが、此処まで呷られては中々押さえきれるものでもない。前髪を手で払ってから、ふう、と溜息をついて、幸村は佐助を仰向けに横たえた。 「もう良いわ。寝ておれよ」 「ん?」 微かに佐助が薄目を開く。それを見下ろしながら、ちゅ、と唇に触れると、佐助も反応して舌先を突き出してくる。 ――ちゅ、くちゅ。 舌先を絡めながら、幸村はごそごそと彼の上に乗り上げていく。袴は既に佐助の手によって振り払われてしまっている。素肌の内腿が、佐助の腰に当たるのを感じながら、そっと小さな胸元に触れた。 「ん…――旦那、擽ったい」 「そうか?」 指先で佐助の胸元を弄りながら、片手で自分の秘部に手を添える。既に緩やかに勃ちあがっている自身から、じわりと浮き出ている先走りを掬い取って、擦り付けていく。 ――とん。 不意に落ち込んだ臀部に、硬いものがあたった。微かに見下ろしてみると、佐助のものが既に勃ちあがって触れてきている。 ――ぬる、ぬるる。 「――っ、ふ、は……ぁ」 幸村は其処に自分の秘部を宛がい、擦り付けていく。ぬるぬると滑る其処が、どんどん柔らかくなっていくような気がした。 ――もう、良いか。 最初は中々解れなかった其処も、今では彼を受け入れることが出来るようになっている。幸村は目の前で、仰向けになっている佐助を見下ろしたまま、ぺろ、と舌先で口元を舐めた。どきどき、と鼓動はしきりに高鳴っている。 ――寝て居れよ。 なんとなく自慰のような、佐助を犯しているような気分になりながら、幸村はゆっくりと腰を落としていく。 ――ず、ずず…ずく。 「ふ…――っ、はぁ…――ん」 ゆっくりと緩急をつけて腰を落としていくと、後孔の淵がぐいぐいと彼を飲み込んでいく。熱い杭が入り込んでくる感触に、ぞくぞく、と戦慄が走っていく。 ――気持ちいい…。 脳髄までも痺れるような感覚に暫く浸ってから、幸村はゆっくりと腰を動かし始めていく。何度も挿し入れを繰り返し、ぞくぞくと快楽が満ちてくると、はふ、と息を付きながら動きを止める。そうしていると、自身の陰茎から、ぽたぽた、と先走りが零れてきて、佐助の腹を濡らしていった。 ――達かずに、このまま繋がってたい。 こんな淫乱な自分は知らない――元々酒に酔う性質ではないが、幸村は酒のせいにでもしたい気分で、快楽を素直に受け入れ続けていく。 不意に、ゆさゆさ、と揺れる振動に気付いたのか、佐助はゆったりと瞳を上げた。 「あれ?旦那?」 「ん…――起きたのか?」 ぐん、と腰を打ち付けてから、ずるり、と半ばまで抜きこむ。汗を浮べながら、佐助の胸元に手をついて見下ろすと、瞬時に状況に気付いた佐助が腕を伸ばしてきた。 「って、え?ちょ…――なん…?」 「いいから寝てろ。俺が勝手に動いているだけだ」 「勝手にって…」 腰に佐助の大きな掌が添えられる。それを感じながら、ぐ、ぐ、と強く出し挿れを繰り返すと、彼は眉根を寄せて甘い吐息を吐いた。 「あ…だ、んな…――ッ?」 「は…ッ、ぅ、ん、んん」 ――ぐち、ぐちゅ、ぐぷ… 抜き挿しを繰り返すと、びりびりと背が震える。幸村は後方に咽喉を反らして、ん、と甘い吐息を吐いた。はあ、はあ、と跳ねる呼吸も、気持ちよくて堪らない。 「…きもち、いい…――ッ」 「――――…ッ」 思わず咽喉を反らしたままで、掠れた声で呟くと、腰に触れていた佐助の手に力が篭った。 「こんないい眺めなのに、黙ってろって?」 「え…――っぅあッ」 ――ぐん。 急に背に布団の感触が触れてくる。気付くと眉根に皺を寄せて、汗を滲ませた佐助が乗り上げてきていた。急に体勢を変えられたことに驚いているうちに、右足だけを佐助は肩に乗せてから、ぐ、と逃げられないように腰を掴んでくる。 「形勢逆転。行くよ」 「ぁ、あッ…、あ、んッ」 ――ぐちゅ、ぐちゅ、ぐぷっ 下肢から濡れた粘着質な音が響きこんでくる。気付くと強く腰を打ち付けられ、がくがくと揺さ振られていく。突然の強い刺激に、逃げをうとうとしても腰を強く抱えられていてそれどころではない。 「旦那…――っ、旦那」 「は、はや…――っ、もっと、ゆっくり…んんっ」 「ゆっくりなんて、無理だよ…」 「ぁう、う…――っ、っ」 ぐちゅ、ぐちゅ、と下肢が打ち付けられる度に淫猥な音を立てる。既に幸村のツボを得ている佐助は快い処ばかりを狙ってくる。激しい抜き挿しの際に肌と肌が打ち付けられる音がする。合わせて佐助は幸村の陰茎にも指を絡ませてきたから堪ったものではない。 「うぁ、あ…――っ、んっく」 「旦那、達きそう?」 「うん…、ん…――達く、――ッ」 耳元に佐助の掠れた声が響く。それと同時に、ぶるり、と背が振るえ勢いよく吐精していた。吐精の余韻に浸る間もなく、ずるん、と佐助の陰茎が後孔から抜き取られる。その際に、ぶる、と身体を震わせるが、見上げた佐助の顔が険しくなっていく。 「――ぅ」 「佐助?」 「――――ッッ」 ばっと口元を押さえて佐助は幸村から離れると、ぱしん、と勢い良く障子を開け放った。 そして庭先に向って、うえええ、と嘔吐していく。 ――やれやれ。 幸村は苦笑しながら、のそりと起き上がると、まだ少し火照りを残したままで彼の元にいく。素っ裸の二人だが、そのままで幸村は彼の背を擦った。 「だから言わんこっちゃ無い」 「うぅぅぅ、でも…うええええ」 「酔ってるくせに、そのように激しく動く輩がいるか。馬鹿者」 「だって旦那が気持ちよさそうでさ…」 「はいはい」 さすさす、と背をなでてやる。誘ったのも、煽ったのも自分だから強くは言えない。佐助は蒼い顔をしたままで、背を丸めて庭に向って項垂れていた。 「うぅ…――ッ」 「いつもと逆だな。弱まった佐助を労るのも悪くはないな」 「何言って…」 ふふふ、と幸村が苦笑しながら言うのに反論しようと佐助は振り返ると、幸村は視線を横に流していた。 「おお、済まぬが、単衣と薬を」 「え…?」 「あと、此処の掃除を頼む」 何食わぬ顔で幸村は通りかかった忍隊の少年に告げている。唖然とそのやりとりを見つめて、佐助はさあと背筋が凍る気がした。 忍隊の少年は、はくはく、と口を動かしたままで、真っ赤になりながら踵を返していく。幸村は悪びれもせずに佐助に向き直った。 「どうかしたか?」 「俺様、明日の自分が不安」 「ははは、そう言うな」 多分、彼らに今のことは筒抜けになってしまうだろう。様々な意味で自分の威厳だとかが薄れそうで、佐助は額を押さえるだけだった。 「お前が吐いたから脱いだとでも言え」 「あんたね、その身体に振り掛かってるものをどう説明するのさ?」 言われてみれば、腿や、腹には濡れた痕がある。幸村は「おお」と言いながら手でごしごしとそれを拭った。佐助は溜息を付きながら再び中に幸村を引き連れて戻ると、手ぬぐいで軽くそれらを拭いとってから、布団に横になった。 「もう酒はこりごりだよ」 「そうだな、お前は程ほどにしておけ」 隣にもぐりこんだ幸村が、ふふ、と目元に皺を刻みながら笑う。唇を尖らせて佐助は彼に擦り寄った。 「旦那に酔うだけにしておきます」 「な…――ッ」 言いながら幸村の身体に足を絡めると、ぐわ、と幸村の体温が上がっていった。 「破廉恥でござるぅぅああぁぁぁぁぁ――ッ!」 次の瞬間、ばちん、と幸村の平手が佐助の臀部に激しくぶつかっていった。 翌日、忍隊の面々に、この夜のことが伝わっていたとか、居なかったとか。 了 100321 コピー本から。 |