ホイップ・ラビット



 うさぎは寂しいと死んじゃうって本当?



 ――だったら旦那もうさぎになっちゃえばいいのに。

 目の前でむくれる幸村を見つめてそんな風に思う。そして在りえない場所に動いている耳を引っ張って、幸村がぎろりと睨んできた。

「おい、佐助…これは何のつもりだ?」
「え?普段素直になれない旦那のため?」
「俺のどこが素直じゃないと?」

 ひく、と幸村の口元が揺れる。
 佐助は彼の正面で胡坐をかいて、いそいそと幸村の上着を脱がせにかかる。

「んー…もっと俺を欲しがってもいいと思うんだよねぇ」
「な…ッ」
「仮にも、恋仲、なんだし?」
「だがそれとこれとは…」

 関係なくないよ、と微笑んで誤魔化しながら、佐助は幸村の赤く染まる上着を脱がせた。すると胸宛だけの姿になる。

 ――この姿って何度見ても、なんかそそられるんだよねぇ。

 こく、と咽喉を鳴らしながらじっと肌の肌理を見つめていると、ふる、と幸村の肩が揺れた。無言で居たのが不安にさせたのか、見上げると困ったように眉を下げている彼がいる。

 ――かーわいい。

 ふ、と口元が綻ぶ。佐助は首を伸ばすようにして彼を見上げながら、掬い上げるように唇を重ねていた。






 事の起こりは、任務から戻った佐助に殆ど視線も向けさせず、ただ頷く彼の態度が気に入らなかった――それだけだ。
 疲れて帰ってきて、命がけで戻ってきたのに、労いの言葉も――あまつさえ、優しい一言もありもせずに、ただ「下がって良い」とだけ告げられた。

 ――それじゃあ、俺様何の為に働いたって訳さ!

 出かけるときには「早く戻って来い」と泣きそうな顔で云っていた筈の恋人は、帰ってきたら来たで素っ気無い。
 そんな訳でちょっとした悪戯心で、幸村に変化の術をかけてみた――その結果が目の前のうさぎの耳と尻尾をつけた幸村だ。

「ん」

 後ろから抱き締めて、口に指先を差し入れる。すると指を舌先で愛撫していく幸村が、小さく甘えたな声を出した。

「だぁめ、口閉じちゃ」
「あッ――ふ、ぅ、ぅん」

 一つ一つ、と指を増やしていくと、顎先がくんと上にあがる。さらに飲み込みきれなかった唾液が、粘気を帯びて佐助の指を濡らしていく。

「はは、零れてきたね」
「んん」

 くぐもった声を出していく幸村は、後ろから抱き締められながら、肩を竦めている。足を開いて座っている佐助の膝に、手を添えては、んくんく、と喘ぎながら背を撓らせる。

「ほら、もっと口大きく開けて?」
「ん…んっく、…ふ」

 拙い舌先の動きが指先を舐っていく。その動きがまるで佐助の愛撫をなぞっているかのようで、どきどきしてくる。

 ――俺のしているの、覚えてるんだね。

 指の腹を突くように動く舌先、上顎を擽ると、口を閉じようとする――その繰り返しがやたらと楽しくて、幸村の口腔内を犯すことに必死になっていく。
 んく、と何度目かになる嚥下を咽喉が促がす――それと同時に長い耳が、ふるん、と震え始めた。

「あ〜、旦那の口の中って暖かい」
「んっ」

 幸村の肩口に額を押し付けて、片腕は彼の腰に回して逃げられないようにし、もう片方は彼の口の中だ。
 幸村がばしばしと佐助の膝を叩いてきた。

「あはは、叩かない、叩かない」
「――…ッ」

 肩口から覗き込むと、幸村が――瞳を涙で一杯にして見下ろしてくる。その姿が、とろん、と蕩けそうで、其れでいて誘っているかのようで堪らない。

 ――怒ってるんだか、誘ってるんだか。

「苦しくなってきたの?喉、引っ付きそうなんでしょ?」
「ッふ」

 こく、と幸村の頤が動く。びくん、と耳もまた揺れて――その耳を手繰り寄せて、はむ、と口元で挟み込むと、幸村の腰が揺れていく。

「ん――――ッ」
「可愛い」

 たまらなく愛らしくてならない。こんな風に啼かせてみるのも良いかもしれない。佐助の嗜虐心がざわざわと音を立てて沸き起こってきた。

 ――ちゅ。

 口腔内を犯していた指を引抜くと、後を惜しむように唾液が糸を引いていく。そのまま幸村の顎先に流れるのを、後ろから引き寄せて顎先まで舐めると、幸村は首を振って逃れようとした。

 ――ぎゅう。

「あ、な、何を…ッ」
「逃げないでよ」

 両腕を使って思い切り抱き締めると、幸村が慌てて佐助の腕を引き剥がそうとする。だが佐助もまた離す気もなかった。

 ――ぐり。

「ひゃっ!」
「え…――っ」

 不意に背後から身体を密着させた途端に幸村の口から、思いがけずに高い声が飛び出た。出した本人もまた驚いて、瞳をぱちぱちと動かしている。
 硬直している幸村の変化を見止めて、佐助は「ははあ」と合点がいったとばかりに口元に笑みを作った。

「旦那、ちょいと御免よ」
「え…?あ、や…―ッ、佐助ッ」

 くい、と腰を自分の顔の位置にくるように引き上げ、幸村の肩を床に押し付ける。すると臀部を突き出した格好になった。

 ――ひく。

 佐助は目的の場所に視線を動かして、ぺろ、と口の端を舐めた。
 幸村の臀部――其処は中央に在りえない膨らみを作っていた。

 ――尻尾、だよね。

 ふにふにと動いているのが解る。布の上から触れると、びくん、と幸村の身体が揺れた。

「佐助、厭だ…ッ」

 服の上から触れる――直に触るには脱がさないといけないが、幸村は瞬時に悟ったのか、袴の前側を手で押さえこんでいく。
 だが佐助も負けては居ない。そのまま後ろ側だけをずるりと引き下げた――すると、ふわふわとした尻尾が其処に、ふる、と揺れている。

 ――やべぇッ!可愛いじゃんッ!

 ふわふわもこもこの丸い尻尾が、まるで食べてくれとでも言いたげに揺れている――もちろんそんな風に見えるのは佐助の目だけだ。

「…此処、尻尾だよね?可愛い…ふるふるしてさ」
「や、やぁ…ッ」

 ぎゅう、と尻尾に手を伸ばして握りこむ。ふにふにと掌で転がすように動かすと、へなへなと幸村の腰が砕け落ちていく。
 それを背後から覆いかぶさりながら支え、前に手を伸ばした。

「あッ…――ッ」
「わ、硬ッ…――」
「さ、さすけ…――やめ…やめ、て」

 ぐにぐに、と前に手を差し込みながら、慣れた感触を掌で味わう。すると徐々に幸村の声が泣き声に変わってきた。

「握っただけで感じちゃった?」

 ――うさぎな旦那はやらしいね。

 佐助は自身の腰が、ずくんと疼くのを感じながら、はむ、と幸村の尻尾を口に含んだ。すると幸村は尻尾も、耳も――背も撓らせて、ただ沈みこんでいくだけだった。










「なんでウサギなのだ…?」

 散々致した後、うつ伏せのままで幸村が恨めしそうに告げてきた。
 腕枕をしながら、彼の髪をなでながら佐助は「うさぎって寂しいと死んじゃうって聞いたから」とは応えずに、うーん、と唸った。

「強いて言うのなら、男のロマン?」
「…そんな男のろまん、あってたまるか」

 毒づく幸村は、がぶ、とそのまま佐助の腕に噛み付いた。そんな甘噛みも愛しく感じながら、佐助はただ腕の中の幸村を抱き締めるだけだった。












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幸村がむくれていたのは、佐助の浮気疑惑とかでどうですかね。書き忘れた。