琥珀と緑青





 縁側に座って茶菓子の団子を食べていると、横で佐助が茶を淹れていた。温かい茶が淹れられ、そっと傍に置かれる。

「お前も食うか?」
「ありがたいけど、今はいいや。俺様、そんなに甘いの得意じゃないし」
「そう…か?」

 つい、と一本差し出してみるが佐助は隣に座って、手をぱたぱたと振った。眇められた佐助の瞳が、光を反射して緑色に光る。
 穏やかな秋の――鈍い光が辺りを金色に染めていた。幸村は一度差し出した団子を口に運んでもくもくと動かす。隣には佐助がいて、茶をゆっくりと飲んでいた。
 咽喉が、こくり、と動くと彼の咽喉仏が上下に動く。それがくっきりと浮いていて、思わず其処に見惚れてしまった。
 そして咽喉元に掛かる髪が、光に映し取られて、透けてまるで鼈甲飴のように煌いていた。

 ――なんとも、甘そうな。

 口の中のみたらし団子よりも、彼の髪の色のほうが甘そうだ――などと思いながら視線を動かしていくと、さら、と癖のある彼の髪が風に吹かれた。
 前髪が風に吹かれて、さらりと揺れて、佐助の濃い緑の瞳に絡み合う。

「佐助…」
「んー?」

 ――つい。

 指先を伸ばして、佐助の目に掛かる髪を、そっと摘んでから離した。手には柔らかい髪の感触が残る。

「目が、悪くなるぞ」
「何?ああ、髪?」
「うむ…目に掛かっておる」

 佐助は視線を動かして、自分の前髪の端を指先で、ちょい、と摘んで見せた。幸村は口元に入れていた団子を素早く咽喉に流し込むと、茶に手をつけた。
 その間にも風が吹いて、二人の間を通り過ぎていく。
 佐助は、うーん、と指先で前髪を弄っていたかと思うと、掌を開いて静かに俯いた。そして、くい、と顔を上げる。

「じゃあ、これでならいい?」
「――――ッ」

 指の合間に髪を絡め取り、無造作に掻きあげていく。仕種がゆっくりとしていて、やたらと見つめてしまった。
 佐助の指先に、飴色の――光に透けて琥珀のように見える髪が絡まっており、その下から、佐助の顔が顕になる。切れ長の瞳に合わせて、きりりと引き絞られた眉、す、と通った鼻梁に、少しだけ薄い唇が笑んでいる。

 ――整っているものだ…。

 一つ一つのパーツが整っている。更に云えば、彼の緑色の瞳が、光の加減で時折蒼を弾く。きらきらとしている瞳をじっと見つめていると、佐助が気付いて口元に、ふ、と笑みを浮かべた。

「どうしたの、旦那?」
「目…」
「目?」

 前髪を撫でつけながら、じっと見つめている幸村の言葉を鸚鵡返しに訊く。幸村は視線を佐助から離さずに、両手で湯飲みを包み込んだ。

「佐助の目、色が…きれいだと…」
「ぶは…っ!そういうこと云わないでよね」

 ほわ、と眦に朱を乗せて佐助が破顔する。

 ――照れちゃうじゃない。

 困ったように眉根を寄せて、くふくふ、と笑う佐助は忙しなく髪を撫で上げていく。幸村は傍らに湯飲みを置くと、ぬっと手を伸ばして佐助の頬を掴みこんだ。

 ――ぐい。

「い…――ッ?」
「まるで宝石みたいだな」
「旦那ぁ、それ以上褒めないで」

 ――困っちゃうからさ。

 泣きそうに顔をゆがめた佐助の肌が――触れている頬が、ぼ、と熱くなってくる。幸村はその変化に、口元を吊り上げて笑っていった。












090913/090921 up