Cage どのくらい繰り返していたかなんてもう数えている余裕はなかった。 うつぶせた姿勢で――腰を高く突き出した姿勢で、只管敷き布団の上を握りこんでは、縋り付く場所を探していく。その合間にも佐助の指が後孔に入り込んできては、内部を擦っていく。 「やっぱり、これだけ達くと力入らなくなってくるでしょ?」 「――っ、は、は、……ん」 咽喉から漏れ出るのは喘ぎ声ばかりだった。まともに会話をしようにも、与えられる快感がいつもの比ではなく、何も考えられなくなっていく。まるで脳までが沸騰しているかのようだった。 「あれ?もう話すのも無理?」 「そんな、ことは…――…っ」 からからに渇く咽喉から、掠れた声を絞り出す。微かに肩越しに振り返り、涙に濡れる視界の先では――いつもよりも見えずらい視界がどんどん歪んでいくが、その先で佐助が平然としてこちらを観ていた。その姿がまるで観察しているかのようだった。 「ああ、まだ平気そうだね。だったらこれは?」 ――ぐりッ 「っひ、あぁッ!」 内壁が一際強く引っ掻かれる。それと同時に背筋に向かって、ぞくぞく、とえもいわれぬ程の戦慄が走る。大きく背が引き攣れ、膨らんでいた陰茎から吐精させられた。 ――ぱたぱた、ぱた、 「――イイでしょ、これ」 ずる、と指先を抜きながら佐助が楽しそうに言った。幸村はそのままぐったりと身体を沈めていく。 ――熱い…何処も彼処も焼けるみたいだ。 胡乱な目つきで自分の動かない――包帯に巻かれた腕を眺めた。だがそれも直ぐに上から影が降りてきて、佐助が肩を押してくる。何度か唇を合わせていくと酸素が足りなくなって、余計に朦朧としてきた。幸村は熱を逃がすように何度も身体全体で大きく呼吸を繰り返していく。 ――ぐっ。 落ち着きかけた瞬間、強く臀部を分け拡げられる。幸村が慌てて身体を起こして逃げようとしたが、力が入らない。じたばたと辛うじて動かす手足の間で、ぬるり、と滑った温い感触が後孔に触れてくる――しかも指とは違って柔らかい。 恐る恐る幸村が自分の下肢の方を見ると、佐助が其処に顔を埋めていた。 「や…――っん、やだ…――」 ――くちゅ、ちゅ、ぢゅる… 霞んでいる視界からでもその光景はやたらと淫らで目を瞑りたくなる。それに増して、薬のせいで敏感になっている影響もあって、与えられるもの全てがいつもの倍以上に感じられていく。下肢に滑る佐助の舌が這って行く――濡れた指先が肌を滑っていく、それ全てに容赦なく反応してしまう。 佐助は後孔の襞を解すかのように、じっくりと舌先を使って拡げていく。 「厭、止め…――そんな、とこ…」 「なんで?」 顔を起した佐助に、はふはふ、と胸で呼吸をしながら――涙目になっているのは解るが、睨みつけた。それが今の幸村に出来る抵抗としかいえない。 荒い呼吸を繰り返していると、佐助が臀部から顔を上げて幸村の足を持ち上げる。そうされると背中に布団の感触が感じられ、仰向けにされているのだと解った。腕がびりびりと痺れて思うように動かない。まるで赤子の手を捻るかのように簡単に佐助の手に翻弄されてしまう。 彼は幸村を上から見下ろしながら、ぐったりと力を無くしている両足を引き寄せて、肩に抱え込む時に内腿に、ちゅ、ちゅ、と強く口付けられた。 「ふ…――ぅ、ん」 「ねぇ、旦那ぁ……結構良い眺めなんだけど」 「し…知らぬ…――」 「もったいないなぁ…こんなに淫らになれるのに。いつもは自制しているの?」 「や、言う…な…――」 佐助の言葉が耳に甘く突き刺さる。業と羞恥を煽っているのは解っている。言われるたびに、かぁ、と熱くなる肌と――反応してしまう身体が恨めしい。 ――どうして、こんなことに… 今更そんな風に考えてしまう。まともな思考は既に紡ぐことが出来ない。混乱する思考の中で、佐助の声だけが鮮明に自身を捕らえていくだけだ。 「――こういうのも、気持ち良いって知ってる?」 「な…――ッ、っ」 ぎゅう、と腹の上に弾みかけていた陰茎の根元に佐助の指先が絡まる。そのまま強く握りこまれて痛みが走った。 「苦痛と、快楽って近くてさ…我慢して、我慢して、それで出す時って気持ち好いよ?」 「――…ッ」 さあ、と血の気が下がる気がした。だがそれよりも、何処でそんな事を覚えてきたのかと疑いたくもなる。幸村が抵抗する間もなく、しゅる、と器用に帯を――確か最初には手首に絡めとられていたが――引き寄せて、其処に巻きつけていく。 「い、痛ぃ…――っ」 ぎゅ、と強く引き結ばれて、びりり、と痛みが走った。じわり、と眦に涙が浮かんでくる。甘えたな声でそれを訴えると、佐助の手が伸びてきて幸村の額をなでていった。 その手の動きは優しくて、どれが彼の本意なのか――今のこの状況は内心では楽しんでいるのではないか、とか考えてしまうのだが、それさえも曖昧になっていく。 する、と指先が動いて、根元を結ばれた陰茎の先――割れ目の辺りに爪が立てられる。すると、じわり、と其処から先走りが溢れて来る。 「――……ッく」 「身体はホントに正直だよね。……痛みも、快楽にしかならないよ」 触れられるところの刺激だけが強くて、背が打ち上げられた魚のようにびくびくと動いていく。そうしていくと、ふと結び付けられている陰茎の奥――其処にある柔玉に佐助の手が絡む。 やわやわと双玉を掌で包むようにして揉まれていくと、もどかしいような緩い痺れが腰に走る。幸村は焦らされるのをむずがるように腰を動かした。 「ふっ、ぅ……――ん」 柔玉を片手で――掌で揉みながら、裏筋を指先でつつつと撫で上げられていく。それだけで腹の上に硬く張り詰めていた陰茎が、どくどくと脈打っていった。 「んん、ん…ぁあぃ」 「すごいね、旦那のココ。可愛い…」 すい、と柔玉の薄い皮を摘みあげて佐助が笑う。若干の痛みと共に、ぞわぞわと震えがくる。そうなってくると、もうどうしようもない。 「な…――っ、あ、はっ、」 「触り心地良いんだよねぇ…」 ――ふにふにしててさ。 楽しそうに佐助は双玉をくりくりと掌をたくみに動かしていく。幸村は上体を捻って其処から逃れようとしたが、足を佐助の肩に乗せられてしまっているせいで、ただ腰を捻っただけに過ぎなかった。 「んん、んっ…――」 「柔らかい…食べちゃいたい」 うっそりと揉みこむ手を止めずに佐助が呟く。ごく、と佐助の咽喉が鳴った。 ――はむ 「な…――んぁ、ああっ」 熱い吐息が陰嚢に触れたかと思うと、今度は熱い粘膜に包まれる。そのまま強く吸い上げられ、ぢゅう、と音が響いた。 「や、さす…――け……ッ」 舌先の上に転がすようにして含まされる間、びくびく、と腰が跳ねる。腰が跳ねるときつく結ばれている陰茎が余計に行き場を失って、腹の上で跳ねた。 「ぁ、っふ…――舐め、る…――な…ッ」 幸村が首を振りながら感覚を散らしても、直ぐにそれは意味を成さなくなっていく。佐助の舌先と上顎に包まれて、陰嚢が刺激されていく。付け根の河を時折歯先で挟み込んでひっぱられると、びりり、と突っ張るような感じがしていく。 ――ヤバい… ずん、と腰が――気怠く重くなっていた其処が疼き出し、ざわざわと戦慄が駆け上ってきた。 「さす…――け……ッ」 股間に頭を埋め込むかのようにして、しゃぶりついている佐助の髪を手を伸ばして掴みこむ。すると佐助は幸村の陰嚢を口に含んだままで――目線だけを上げて来た。 「ん――?」 「――……ッッ」 ――ぷは。 ずる、と口から柔玉を滑り落とすと佐助は手に再び包み込みながら、ぐっと身体を折り曲げてくる。同時に肩に幸村の足が乗っているので、幸村の身体も折りたたまれるかのようになる。 「何?どうしたの、旦那ぁ」 「――…ぃ、ぃき、……」 間近に迫る佐助の顔に、ふるふると震えを伴う腕を伸ばす。すかさずその腕を取って撫でる佐助が、耳をすませるように顔を近づけてきた。 「何?言って。言ってくれなきゃ、何もしないよ」 「――達きそぅ…」 ううう、と羞恥で唸ってしまいそうになるが、辛うじて伝える。 「マジ?」 「――…ぅ、ッッ…」 初めてそんな言葉を口にした。驚いたように佐助の瞳が見開かれる。顔から火を噴きそうで――羞恥のせいでじわりと涙が滲んでくる。そしてそのままこめかみを伝っていく涙を佐助は指先で掬ってから、にやり、と厭な笑い方をした。 「へぇ…だったら…――」 「佐助……――?」 「ココだけで達ってみてよ」 ふに、と陰嚢を握りこまれる。ふにふにと指をばらばらに動かして其処だけを攻めて来られる。執拗に其処だけを弄られて腰がもどかしさに揺れていく。 「あ、あ、…――あぁ、――…」 ――しゅる… 喘ぎ続けていく幸村の身体が、びくん、と大きく揺れると、彼は瞳を大きく見開いた。それに逢わせて佐助は根元に結び付けていた帯を振り解く。 「ぁ、あああっ、ぅあッ…――ッ」 堰き止められていたものを開放されて、次の瞬間幸村は飛び散るほどに勢いよく吐精していった。 両腕を投げ出して大の字になるかのように倒れこむ。もう何もかも如何でもいい。身体全体が怠くて動かすのもやっとだった。いや、立ち上がることさえ出来るかどうか解らない。 「どう?もう降参、する?」 「っ、は…は、は、っく……――」 「旦那ぁ、指一本動かすの、辛いでしょ?」 上から覗き込みながら佐助が言う。濡れた指先が頬に滑って、んく、と咽喉を嚥下させると、ふと彼がまったく乱れていないのに気付いた。 自分ばかりが追い立てられ、上り詰められてばかりいた。 ――これでは、拷問そのものだ。 確かにそれ用の薬も盛られている。でも好いた相手になら――どうせなら、一人で達かされるだけの寂しいものではなくて、彼自身に引導を渡して貰いたい。 「――……っ」 「何?何が言いたいの?」 「――――……ッ、さす、け」 「ん――…?」 ゆるゆる、と力の入りきらない腕を持ち上げると、途中から佐助の手に掬い上げられる。幸村は佐助の頬に両手を――包帯のせいで、佐助の肌の感触があまりしないが――包み込みながら、ん、と咽喉を潤してから言葉を紡ぐ。 「お前が…お前が、足りない…」 「――――…ッ」 「どうせなら…この、俺の、手足を奪うなら…」 ぴく、と佐助の動きが止まった。 「お前が抱け」 其処まで言うと、ずる、と腕から力を抜く。彼の前に大の字に倒れこみながら、焦点の合いきれない瞳を、ただ天井に向けた。幾分よくなったとは言え、この瞳もまだ歪んでいる。 ――確かに、これでは足手まとい。 ふと脳裏にそんなことが浮かぶ。だがそれよりも今はこの熱を冷ましたいだけだった。はー、はー、と全力で走った後のような呼吸を繰り返してくと、佐助が大きな溜息をつくと、ぐっと再び幸村の足を片方だけ持ち上げてくる。そして唇に吸い付くと直ぐに離れた。 「――そういうこと、言うの?」 「――さすけ…――佐助……」 直ぐに離れた唇を強請るように舌先を伸ばすと、ちゅる、とそのまま吸い付かれる。くちゅくちゅと舌先を絡めながら、性急な動きで佐助が自分の衣服を脱いでいく。 「ああもう、そのままずっと狂ってくれてたらいいのに」 「佐助…――ッ」 「いいよ、抱いてあげる。抱き殺してあげる」 ばさ、と傍らに脱いだばかりの服が放り投げられる。そうすると彼の乾いた素肌が幸村の肌に触れる。 ――ぞくん。 佐助の体温――今まで何度も達かされたというのに、それを感じた瞬間に今まで以上の快感が走っていく。それを悟られたくなくて身を捩るが、彼の身体に縫い付けられてしまう。 「一緒に溺れようか」 耳朶に甘噛みされて囁かれる――肩口にある佐助の頭を抱え込みながら、幸村は何度目かになる絶頂を迎えていった。 ――でも直ぐに手足を得て、出て行ってしまうだろうね。 小さな、本当に小さな囁きが聞こえた。その囁きに瞳を開けると、視界がクリアに広がった。幸村は空かさず彼の姿を探した。 「佐助?」 「身体、動かないでしょう…――?」 「俺、は…――」 ぼんやりと応えながら、佐助の手に手ぬぐいがあることに気付く。ぱしゃ、と跳ねる水音に今までの事が一気に喚起された。 「あっ…――ッ」 ぶわ、と羞恥で肌がじわりと熱くなった。身体を起こそうにも、確かに佐助が言ったとおりに起すことが出来ない。 布団の上で身体を芋虫のように縮めていると、佐助が傍らに座ったままで苦笑した。 「思い出した?」 「――…大体は」 「やっぱり減給?それとも解雇?」 佐助は苦笑しながら、はは、と泣き出しそうな顔をしていた。やったことは酷い。言葉さえも甘いだけでもなかった。そんな風に情を重ねたことなど無い――だから、余計にショックだった。だが、だからと言って切り捨てる訳でもない。 ――もともと、俺を諌めるつもり…だった、筈。 やり方は色々ある。そのうちのひとつだ、と納得しかけてしまう。しょんぼりと傍らに座りながら項垂れる佐助に、幸村は拳を作って伸ばすと、彼の膝にごつんとあてた。 「――馬鹿者」 「旦那?」 「お前の腕で、俺を強く抱いておけ」 「――――…ッ」 「俺は、お前と云う檻に、今は収まってやる」 横になって腕を伸ばすと、佐助はふふと笑いながらその腕を取った。そして起き上がられるように、腕をひょいと掴むと自分のほうへと引き寄せる。 「そんなこと言ったって、俺の…俺様の腕は、鳥かごが精一杯だよ」 ――閉じ込めたままには出来なくて、いつか自ら扉を開けてしまう。 ぎゅう、と佐助の腕が背中に回ってくる。彼の体温に、ほっと一息つくと、幸村は全体重を佐助に預けて――肩先に顎を乗せると猫のように佐助に擦り寄った。 「それでも、繋ぎとめておけ」 「解りました」 了承の声を出す佐助が――その声が、微かに震えていた。そして、何処にも行かないでよ、旦那、とか細く彼の唇が動いていったが、それには気付かないふりをした。 「佐助」 「ん――…?」 呼びかけると佐助は幸村の背に流れる髪を指先で弄りながら、肩口から返事をした。 「寝付くまで、ずっと…傍にいてくれ」 「はいはい、此処に居ますよ。旦那のもとに」 はは、と軽く笑う佐助に満足しながら笑んで、顔を起して口唇を重ねていった。 ――ねむりにつくまで、ずっと、ずっと…永遠のねむりに、つくまで、傍にいて。 了 090829up 書いたよ!こっ恥ずかしいッッ!!! |