drinker's hight そろそろ幸村も床に就いたかと彼の部屋の近くに行くと、中から宴のような騒がしさが響いてきた。それと同時に佐助の空けようとしていた障子とは別の障子が開き、中から伊達の一群が紅い顔をしながらフラフラと出てきた。それを見送り、佐助は静かに中に入る。 「騒がしいけど、どしたの?」 「oh!調度良いとこに来たな」 「へ…?」 見れば床には政宗と小十郎が座っている。「調度今、あいつら解散させたとこだ」と楽しそうに笑いながら政宗が云う。 その傍らには枡や空いたと思われる徳利が転がっていた。 そして佐助の声に気付いたのか、床に伏せていた幸村ががばりと起き上がった。 「しゃしゅけぇぇぇ――ッ」 「な…――ッ、え、何コレ?」 起き上がり、勢い良く佐助に飛び掛ってくる。避けることも出来ずに幸村を抱きとめ、佐助はその場に転がった。 ――ごん。 倒れこんだ時に佐助の頭が床にあたり、音を立てる。それを聞きとめ、政宗が再び肩を揺らしながら笑った。そして空になった杯を小十郎に差し出すと、小十郎は静かに其処に酒をつぎ込んでいく。 「面白ぇだろ、笑いすぎて腹痛ぇよ」 「え、えええ?って、ちょ…――旦那、あんた酒呑んだの?」 「にょんら〜」 「ああああああもうッ!呂律回ってないしッ」 佐助の胸の上で、へらへらと真っ赤な顔で笑っているのは幸村に他ならない――いや、動きがたどたどしくてまるで幼児だ。 今も佐助にしがみ付いて離れなくなっている。 「ちょ、マジで何コレ?何してんのあんた等ッ!ってか、片倉の旦那、あんたがいて…――」 政宗の傍らにいる小十郎に矛先を向けるが、小十郎は微かに鼻で笑った。 「面目ねぇ…」 「――片倉の旦那、あんたも呑んでるね…」 がく、と佐助は項垂れる。とりあえずべろんべろんに酔っ払った幸村を抱えたまま身体を起こして座りなおす。 幸村は佐助の首に両手を絡めて、頭をだらんと逸らす――それを見ながら政宗は笑い、笑いながら小十郎のほうへと酒を薦める。 「お目付け役が一人も居ないって、どうよ…?」 「政宗様の酒は拒めねぇからな」 「は…はは、は」 くい、と杯を一気に空け、小十郎がすっぱりと云う。しかしこの二人はまったく変化がない。床に転がっている酒を見れば、圧倒的に小十郎の後ろに置かれているものの方が多い。 ――あれ、全部空けたのか… 酒豪を相手に幸村は何をしていたのか。それを思案していると、政宗が腕を伸ばして枡を差し出す。 「まぁ、猿飛。お前も呑め」 「――あ、どうも。じゃなくてッ!何があったの?」 枡を受け取りながら、とりあえずの理由を訊く。すると政宗は肴を口に入れつつ人差し指を幸村に向ける。 「大層なことでもねぇよ。コイツ、俺に挑んできてよ」 ――面倒だから呑み比べた。 簡単に述べる政宗に、がくり、と項垂れる。佐助の胸元にはしっかりと幸村がくっ付いており、自分が戻るまでの間にどんな騒ぎになっていたのかを想像して愕然とするしかない。 「駄目でしょうが!」 「しゃぁぁしゅけぇぇぇ――ッ」 うわあん、と急に大声を上げる幸村に、耳に指を突っ込んで苦笑するしかない。首にぶら下がっている幸村を指差しながら伊達主従に訴える。 「この物体如何したら良いのさッ」 「知るかよ」 べぇ、と紅い舌が佐助に向けられる。それと同時に政宗が、ふ、と溜息をつくと何かに気付いたように小十郎が彼に柔らかく微笑みかけた。 「おや、政宗様」 「あん?」 「少し、酔われたご様子で」 「――…」 小十郎の方を向いて、政宗が目を見開く。そして肩を竦める。 「肩をお貸ししましょうか」 小十郎が訊くと、四つん這いでにじり寄っていく――その姿に政宗もかなり呑んでいるのが窺えた。 ――立てないくらい呑んでるのか。 ぽん、と政宗は小十郎の膝に手を乗せる。そして小十郎の返答を待つ前に彼の膝の上に、ころり、と頭を乗せて横になった。 「肩はいらねぇ。膝かせ」 「はいはい」 「ついでにkissが欲しい」 「はいはい」 軽く答え、小十郎は指を曲げて政宗の唇に当てた。 ――ちょん。 離そうとした指を掴んで、政宗が不服そうに彼の指を玩ぶ。それを見ながら佐助は背中がぞくぞくとしてくるのを感じていた。 ――お…オトナだ…やべぇ…―― 胸に幼児化した幸村を抱えながら唖然として枡酒を口に含んで、ごくりと咽喉を鳴らした。 一向に政宗の思惑に引っ掛からない小十郎は、佐助の空いた枡に酒を勧めてきた。それを見上げながら政宗がつまらなそうに溜息をつく。 「なんだよ、指だけかよ」 「今少し、酒気に当てられてますので」 「気にすんなよなぁ…」 口を尖らせる政宗が歯をむき出しにする。 すると急に胸元にぶら下がっていた幸村が、くわ、と目を開けた。それと同時に佐助の頭を両手でがっしりと掴み込む。 「しゃしゅけ――ッッ」 「いいからもう、寝ててよ、だん…――ッ」 反論しようとした瞬間、真っ赤な頬と、酒気が鼻についた。 ――ちゅう。 「――――ッッ」 触れるだけだが幸村の唇が自身の唇に押し付けられる。 佐助は驚きに目を見開いたまま固まった――だがそれとは逆にずるずると幸村は沈み込み、再び佐助にしがみ付いていく。 動かない佐助に小十郎が声をかけた。 「――猿飛?」 「駄目、今俺様に話しかけないでッ」 ぱっと佐助は両手で耳を押さえる。そして彼の耳が瞬時に、かぁ、と赤くなっていく。 「うれしい…何はどうアレ、旦那から――」 ふるふると打ち震える佐助と、彼の胸元にしがみ付いて寝ている泥酔の幸村――その二人を見つめながら、小十郎が膝の上の政宗の頭を撫でた。 猫のように撫でられながらも、政宗は腕を組みながら彼らを見つめて溜息をついた。 「なんか、憐れだな…」 「そう…――ですね」 小十郎は応えると再び自分の傍にあった杯を煽っていった。 Date:2009.06.02.Tue.18:51 /090614 up 酔っ払いの宴。わが手に酒を!コメディタッチ、かな? |