pink panic 「夢の中での某は女子とは」 小さな手を合わせたまま、幸村は小首を傾げた。紅いハイビスカスの幸村は、冬場は花期ではないので10cm足らずの姿だ。 猿飛佐助はこの冬、インフルエンザで寝込んだ――その間、ずっと見ていた夢がある。 それが、ピンクのハイビスカスの、女の子の幸村との生活の夢だった。 「でもねぇ、ちょっと不思議なんだよね」 「何がどう不思議なのでござる?」 幸村は目の前にだされたチーズケーキにかじりつきながら、もごもごと口を動かしていた。このチーズケーキは元親が作ったらしい――快気祝いだといわれて差し出されたチーズケーキは、プロ顔負けに美味である。 流石に佐助も半分食べつくしてしまうほどだった。 「何が不思議ってさ…なんかね、すごくリアルで…」 「りあるで?」 「本当のことのようでさ。あれが全部夢だったなんて思えなくて」 佐助が、ううん、と唸ってフォークを咥えていると、自分の取り分は食べきった幸村が、ちまちまと歩いてきて、佐助の皿の上のチーズケーキをぶちりと引きちぎった。 「夢ではないのかもしれませぬ」 「うん?――って、ああああ、旦那、それ俺の!」 「硬いことは言わない方が、男らしゅうござる」 ぷん、と頬を膨らませながら、手には佐助のチーズケーキを半分は持っていた。佐助が取り返そうとしていると、幸村はテレビのリモコンを足で、ぽち、と押した。 「これでござる」 「うん?」 気付くとDVDが起動している。何だろうかと思っていると、佐助も知っている映画が流れた。そしてハッと気付く。 「同じ世界のようで居て、そうでない…パラレルワールド?」 「そうでござる!」 幸村がびしりと指を指す。だがその口にはパンパンに詰め込まれたチーズケーキだ。だがそれを思うと佐助にとっては複雑な気持もある。 「くそう…それなら、女の子の感触、もっと味わってくれば良かった」 「佐助殿ッ!」 きっと幸村の視線が佐助に向う。ぽかぽかと叩きつけられる小さな拳に、ひょい、と幸村を持ち上げると、そのまま口元にキスした。 「――…ッ」 「嘘だよ、俺には旦那がいるじゃない」 「佐助、どの…」 ぷわ、と頬を紅くして幸村が俯く。そして小さな手を伸ばして、自分から今度は佐助の唇に、ちゅ、と音を立ててキスした。 「旦那…?」 「ようござった」 「え?」 「どの世界でも、某、佐助殿に愛されておると思うと、なにやら幸せでござる」 頬を紅くしながら話す幸村に、じぃん、と胸元が熱くなる。佐助は幸村にそっと自分のチーズケーキを渡すと、そうだね、と頷いた。 「某、佐助が大大大大…ッ好きでござるッッッ!」 「俺様だって負けてないからね!旦那が好きだよッ!」 でれでれと鼻の下を伸ばしたままの佐助が幸村に言うと、幸村は嬉しそうに笑っていった。 「好きで、好きで…もう抱きたいくらい」 幸村の頬に自分の頬を寄せて、そのまま首筋に鼻先を埋めて問う。すると佐助の重みを受け止めながら、幸村はそっと耳朶に囁いた。 細い体に、長い髪――華奢な身体つきに似合うワンピースをはためかせて立つ彼女の姿を思うと、胸が高鳴って仕方ない。 「そ、某も」 「え…――っ」 思わず顔を上げて確認してしまう。正面から見下ろしていれば、幸村はほんのりと頬を染めていく。それが薄い明かりの下でも見て取れた。 「ほ、本当に…いいの?」 「好きな相手に求められて拒むなど致しはせぬ」 佐助がそれでも躊躇しながら問うと、きっぱりと言い放たれる。そんな処はもはや苦笑するしかない。佐助は嬉しさ一杯で、くすくすと笑った。すると幸村は頬を、ぷう、と膨らませて見せた。 「もう、漢前なんだから」 「悪いか?」 「ううん、そんな処も可愛い」 ――ちゅ。 額に口づける。其処から鼻先、顎、頬、唇とキスを降らせていく。擽ったいのか、幸村は佐助が触れると小さく震えながらも、ふふ、と小さく笑っていく。 そんな処にいつもの無邪気さとは違う色香を感じながら、佐助はそっと彼女の胸元に手を伸ばした。 「うんと優しくするから…」 ひく、と幸村の身体が佐助の手に反応する。胸元に滑らせた手を、く、と山にするように動かすと、ふにゃ、と柔らかい感触が乗ってくる。休む時は流石に下着を外しているようで、直に弾力のある胸に触れた。 「ん…」 ――やべぇ、柔らかい。 咽喉が鳴るのと同時に、背中に急激に熱が集まってくる。手に触れる柔らかい丸みは、調度佐助の掌に乗る大きさで、ふにふにと柔らかい感触を伝えてくる。堪らず、彼女の上着をたくし上げて、顔を寄せる。 「あ…っ、んっ」 胸元に頬を摺り寄せると、まるでマシュマロのような弾力と柔らかさが触れてくる。唇を寄せて、すすす、と膨らむ乳房の下から動かし、つん、と先の突起に触れる。 「っ、……ぅんん」 「旦那…――」 幸村は身を捩りながら、佐助の髪を両手で絡めていく。引き剥がそうとはしていないから、それがまた嬉しくなってしまう。 「さすけ…っ」 ――しがみ付いて来る腕、細い。 幸村の様子を見上げながら、唇で彼女の胸元を挟み込む。触れるふにふにとした感触が、やたらと気持ちよくて、しきりに唇と掌で愛撫を続けてしまう。すると先の突起が、きゅう、と硬く引き絞られていった。 ――あ、勃った。 ぷる、と揺れる胸に、小さな突起が形を誇示する。佐助は業と音を鳴らしながら、彼女の乳首を吸い上げた。 「あ、あ…っん」 ――じゅっ、ちゅうぅ。 「や、あ…っ」 「旦那、可愛いねぇ」 頬を赤くして身を捩る姿に、くらくらと眩暈を覚える。浮き出た鎖骨にぬるりと舌先を這わせながら、そっと胸元から下に手を添えていく。割り開くようにして彼女の足を動かし、恐る恐る中心部分を探った。 「っ、や…そ、んなっ」 「大丈夫、優しくするから」 するりと滑り込ませた手に、柔毛が触れる。そして割れ目を探るようにして中指を滑らせていくと、熱く熟れた場所に触れた。指先で先の小さな突起を、かり、と爪弾くと幸村が背を撓らせていく。 「佐助…さ、すけ…っ」 「旦那可愛い…ね、もっと旦那を俺に頂戴?」 言いながらも、額に汗がじわりと浮いてくる。それに手に触れている幸村の四肢も徐々に汗ばんで、しっとりと馴染んでくる。大きな瞳に、睫毛を涙で濡らしながら、幸村は佐助を引き寄せて、はふはふと呼吸を繰り返した。 「は…――っ、佐助、お前…だって」 「えー?俺?」 「熱に浮かされたかのような顔だ」 ――熱…うん、熱い。 ひや、と幸村の手が佐助の額に触れる。自分の下肢を持ち上げた彼女の足の合間に滑り込ませたまま、そっと身体を折り重ねていく。 「熱い…そうだね、旦那」 「融けて、しまいそう…」 「うん…融けちゃおうよ」 ――なんていう幸せだろう。 じわじわと熱が伝わってくる。触れる手を止める事無く、ただ深く沈みこむ為に強く彼女を抱き締めていく。シーツの上に広がる波紋のような髪、それに跳ね上がる細い腰を支えながら、佐助はただ熱に浮かされていくだけだった。 朝になったら全てが夢だった――なんてことにはなっていないと良いな、と思いながら目を覚ますと、やたらとすっきりとしている。 身体的なことではなくて、なんだか自分が一枚捲れたような感じだった。 ――なんだろう?俺、今まで誰かと重なっていた気がする。 佐助がそんな風に思うのは仕方ない。 別の世界の自分とずっと共有していた筈の感覚が、全て己だけのものになっているのだ。しかしそれは此方の佐助の知らないところである。 佐助は自分の変化もそこそこに、ハッと気付いた。 ベッドの中に自分いない――という事は、やはり夢だったのか。 ――嘘だろ? さあ、と血の気が引きそうになりながら、身体を起こそうとして気付いた。完全に自分が全裸になっていることと、今まで背を向けていた側に、小さな重みがあった。 「あ…」 其方に身体を向けると、眠る少女がいる。瞬時に鼓動がどくどくと跳ねて仕方なくなってしまう。佐助はもう一度布団に背をつけると、間近で彼女を見詰めた。 ――睫毛、長い。 大きな瞳を彩る睫毛は、今は閉じられている。しかし紅く染まった唇が、つやつやとしていてそのまま齧りつきたい気分だった。 そっと手を伸ばして肩に触れる――そして引き寄せると、幸村はむずがる子どものように「ううん」と唸った。 「――…ッ」 起してしまったかと一瞬手を離す。しかし直ぐに彼女が静かな寝息を立て始めたので、ほっとしつつ、じぃ、と見詰めた。 ――柔らかい身体してたな。 思い出すと鼻血が出そうだった。痛みに耐えながらも、徐々に馴染んでいく様があまりにも初心で、どうしようもなく愛しかった。 ただ欲を満たすだけというよりも、相手のことを考えすぎるくらい考えた。 「旦那…」 小さく囁きながら、そっと引き寄せる。すると柔らかい胸が、むに、と寄せられるのが視界に入って、あわあわと手を離しそうになった。 ――俺、どうしちゃったんだろう。 童貞ではあるまいし、こんな反応をする自分を知らない。少々困りながら、彼女の寝顔を見ていると、瞼が揺れた。 「――…」 「おはよう、旦那」 「おはよう、ござる…佐助?」 まだ、まどろみの中にいるのか、幸村はとろりとした視線で見上げてくる。そして腕を延ばしてしがみ付いて来る。 ――うおおおおおちつけ、おれさまのむすこおおおおおおっ! ぴったりと寄り添う体に、思わず下半身が反応してしまいそうになる。ぐわり、と沸き起こる下肢の熱を追いやるようにして耐えていると、幸村は佐助に乗り上げてきた。 そうすると、たわわな胸がぽよんと揺れて佐助の胸に乗る。 「だ…だんな、ちょっと朝から積極的…」 「晴れて恋仲となったのでござる。良いではないか」 「うわぁ…なに、すごく積極的な女の子」 どうしようかと自問自答していると、幸村は佐助の上に、無邪気に乗ってきて嬉しそうにしている。こんな奔放な女の子は初めてだ。 「あのさ、旦那…あんまり裸で触れ合っているとね」 「うん?」 「その…また、したくなっちゃうんだけど」 「すれば良かろう?」 「――ハイ?」 「我慢は良くないぞ、佐助。いざッ!」 ふん、と拳を見せる姿に、今度は急に萎えてしまう。佐助は、俺様の理性頑張ったね、と自分を宥めてから、幸村を起した。 「佐助?」 「はい、終了。服、着よう?」 「えええええええ?」 「えーじゃないでしょ?身体、大丈夫?」 「からだ…」 言われてから、幸村は自分の身体を見下ろしていく。その隙を縫って、佐助がベッドから飛びのくと、ぽよん、とスプリングが跳ねた。それと同時に上にかけていたタオルケットが落ちる。 「あ」 「あ…」 同時に二人の声が響く。しかも向けられた視線の先には、ベッドのシーツだ。 「なアアアアアアああああああああああああああああッッッ!破廉恥でござるうううううううううう!!」 「わわわわ、痛い痛い旦那、ちょ、痛いって!」 急にそのシーツを観てから、幸村は立ち上がるとタオルケットを体に巻きつけて、ばしばしと佐助を叩き始めた。 二人の目にしたもの――それは、幸村が処女だった証に相違なかった。 軽くシャワーを浴びてから、朝ごはんにホットケーキを用意していると、ぷっくりと頬を膨らませた幸村が座った。 別段体に異変はないようだが、どうにもシーツを汚してしまったのが恥ずかしいらしい。紅いドットの模様のワンピースを着て、その隙間から少しだけ虎柄のブラの紐が覗いている。 「旦那のお気に入りてどうだろうな…」 「何か言ったか?」 「いいえ〜」 佐助が呟きながら、幸村にホイップたっぷりのホットケーキを渡す。まるでハワイのパンケーキのように、ベリーソースとホイップでのタワー状態だが、幸村はそれを目にして瞳を輝かせた。 「機嫌直してね」 「うむ…」 こくり、と頷く幸村は、しばらくもくもくとホットケーキを食べていた。まだ紅い唇だとか、うっすらとピンク色に染まる頬だとか、指先の桜貝のような爪だとかとみていると、それだけで鼻の下が伸びてきてしまう。 佐助は幸村の鉢を引き寄せて、水を上げながら、目の前の幸村を眺めては至福に浸っていた。すると幸村がふと、こくん、と咽喉を鳴らした。 口の端にホイップをつけて、真ん丸の瞳で佐助を見上げてくる。 「佐助、佐助」 「なぁに?」 「何時頃になれば、やや子ができるであろうか?」 「――…」 ぴき、と佐助の笑顔が固まった。 「はい?」 「だから、いつになったら、やや子ができるであろうか?」 「ちょ、旦那…?」 ぶわああああ、と首から熱が上ってくる。まさか幸村がそんな事を言うとは思っても居なかった。 「や…そんな、昨日の今日で出来るなんて、ね?」 「でも、確かに佐助の花粉は某に…」 「うわああああああ、言わないでぇぇぇぇぇぇ」 がばっとテーブルに突っ伏してしまう。しかも「花粉」とか言われると、どう応えたらいいのか判らなくなる。 「できぬのか…?」 「そ、それはおいおいね!」 佐助が色んなダメージを受けているのには構わず、幸村は至って真剣だ。そして、自分のお腹を撫でている。 ――ぐううううううう。 「はッ…佐助!動いたッ!」 「そりゃお腹の音でしょーッ!」 瞬時に佐助が指摘すると、ちぇ、と舌打してくれる。長い睫毛が、ぽちぱちと揺れて愛らしいのに、こんな時には本当に動揺させられてしまう。 幸村はふいに顔を動かすと、髪にいつぞや上げた花のシュシュが付いていた。 「旦那…」 ゆったりとそれに手を伸ばして、こちらを向かせる。すると頬がふわりと桜色になった。 「あ…」 「旦那…いや、幸村」 「なんでござろうか…」 真正面から見つめあうと、瞬時に甘い緊張が走る。幸村が瞳を潤ませて此方を見ている中で、可愛いな、と思いながらも佐助は告げた。 「そもそも、ハイビスカスって、受粉とか関係ないでしょ。株分けで増えるじゃない」 「はッ!そうであったッ!」 がん、とショックを受けて幸村が叫ぶ。ハイビスカスの実がなるのはまた別の種類でもある。この幸村の株は、観賞用のものだからそもそも株分けで増えてきているものだ。 期待に胸を膨らませている幸村を残念に思わせるのもどうかと思ったが、下手な期待は命取りだ――むしろ、佐助の心臓が持たない。 ぶう、と唇を膨らませる幸村に、佐助は笑いかける。 「俺は、旦那がいてくれるだけで、世界が変わった」 「え…」 「大好きだよ、幸村」 幸村の左手を取って、そっと指先に口づける。すると幸村は一瞬不思議そうに瞬きをしたが、次の瞬間には真夏の太陽さえも嫉妬しそうな、満面の笑みを見せてくれた。 「ずっと、ずっと一緒に居ようね」 「勿論でござる!」 すすす、と肩を寄せて佐助の隣に座る幸村が、えへへ、と照れ笑いをする。そんな愛らしい仕種を見詰めながら、佐助は彼女の華奢な肩を引き寄せていった。 花期が終わって小さくなってからも、ぺったりとしたお腹を見詰めて「ややこ…」と時々呟く幸村に、佐助が慌てるのも日常茶飯事となっていこうとは、この時の佐助には予想できなかったことだった。 了 110214コピー本/120115up |