バトル・バレンタイン





 準備良くテーブルの上にはビニールシートが広げられていたので、掃除は困らなそうだが、チョコ塗れになりながら元親が口元を押さえた。

「ううう…くっそ、舌、火傷した」
「俺様も…」

 同じように佐助も口元を押さえたままで仰のく。目の前のテーブルの上のチョコレートフォンドュを食べつくして――小さな元就と幸村に食べさせられて、二人はぐったりとしていた。そして当の二人はザッハトルテ攻略にかかり、手足ならずとも頬もチョコ塗れにしながら、もふもふとザッハトルテを崩していた。

「ふん…ッ。嘘をついた罰よ」
「全くでござる」

 半分ほど消えたザッハトルテの上で、幸村が大きく頷く。口はへの字に曲がって怒っているのが頷けた。元就に至っては、冷たい視線を元親に送っている。

 ――バレンタインは甘味を食べる日。
 ――チョコの数で男があがる!

 などと夫々嘘の情報を流した罰だという。体長10cmの小さな彼らの前で、佐助と元親が水をごくごくと飲むと「ごめんなさい」と謝っていた。
 それを眺めながら、チョコにつけないままで、政宗が苺をぱくと口に運ぶ。大きな、紅ほっぺという苺だ――全部を食べることは出来ずに、半分を口から出して、うまい、と瞳を輝かせていた。その前にさらりと小十郎が紅ほっぺの皿を引き寄せる。

「小十郎、お前何個貰った?」
「今年はまだ義姉さんからのチョコパウンドだけだ。明日じゃないか、貰えるとしたら」
「一杯貰えるといいな」

 にこ、と微笑みながら政宗が苺を頬張る。だが小十郎は口元に拳を作って、ふい、と視線を流した。

「いや…」
「――?」
「お前から貰ったから今年は、もう断るよ」
「――――…ッ」

 ごくん、と政宗は咽喉を鳴らして苺を飲み込んだ。そして苺よりも真っ赤になって行く。それを眺めて、元就と幸村がハッと気付いたように眉を吊り上げた。

「ふお…ッ!片倉殿、なんというお心がけ…某、感動致しましたぞぉぉぉぉぉッ」
「羨ましい限りよのぅ…小十郎は政宗思いだのうぅ…それに比べて元親は…」

 じっとり、と元就と幸村の視線が注がれる。佐助と元親は観念したように、はあ、と溜息を付くと「俺たちも操立てますぅ」と皮肉って言った。

「全く…来月覚えておけよッ」

 吐き捨てるようにして元親が言うと、今度は皆がハッとした。そう来月はホワイトデーだ。それに気付いて彼らは夫々に、にんまり、と厭な笑みを浮べていった。

 ――まだまだバトルは終わらない。

 佐助は胸内でそう呟くと、幸村をひょいと摘み上げた。

「佐助ど…――?」
「旦那ってば美味しそうだね」
「ふえ?」

 きょとんとする幸村に構わず、佐助は業と頬についたチョコを舐め取った。

「ふぎゃああああああああッ!!!!」
「覚悟しててねぇ、旦那」

 ぺろん、と口元を舐め取りながら、佐助がにんまりと笑う。佐助の手にぶら下げられたまま、それを見て幸村がぶるぶると震え出した。

「う…うおおおおおおおお、助けてくだされぇぇぇ」

 激しく叫び出す幸村に、皆が笑い出す。辺りは甘い香りに包まれていった。











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