睦まじく祝う月





 政宗が隣に正座している幸村に矛先を向ける。幸村はちょこんと正座をして、項垂れながら、ふるふると震えていた。

「おい、幸村?」
「…そ、某…――何も申せませぬ…ッ」
「Ah〜?大丈夫かよ、おい」
「言うだけ言ってみよ」

 ひょい、と腕を動かして元就も幸村を促がす。だが幸村は、ぼたぼたと脂汗を浮かべながらも、腿の上で小さな手をぎゅうと握っている。

「言うに忍びないことばかりしておりまして…」
「だから、何やってたんだってのッ」

 ばし、と政宗が背中を叩く。すると徐々に頭を下げながらも幸村が声を絞り出していく。ぶるぶると震える背中が丸くなっていく。

「そ、某…某…――」
「何でも良いから言ってみろって」

 政宗が幸村を横から覗き込みながら促がす。がくがくとしている幸村は真っ赤になったまま、何度も生唾を飲み込んでいく。

「某、何とも破廉恥な…」
「破廉恥なのは貴様の頭だろうが」
「Si!元就ッ!」

 ぴしゃ、と釘を刺す元就を政宗が諌める。だがそれは耳に届いていないらしい。

「そ、その……佐助殿と…」

 ごくん、と元就と政宗の咽喉が盛大な音を立てた。そして幸村は十分に言葉を溜めてから、消え入りそうな声で告げる。

「風呂に、入り申した…ッ」

 幸村は、ぴゃーッ、とそのまま両手で顔を覆って、おおおお、と身体を折り曲げてしまった。今にもでんぐり返しをしそうなくらいに身体を縮めている幸村の隣で、政宗が「ぷは」と息を吐き出す。
 ころん、と後ろ手になって足を投げ出しながら、政宗は気の抜けた溜息を付いた。

「何だ〜、気が抜けた」
「そのような事か」

 はふ、と元就もまた息を吐き出す。緊迫した空気が破かれ、二匹はホッとしていた。だがその様子に幸村だけが顔を起した。

「えッ?」

 ――そんな、他愛のないことなのでござるか?

 今にも立ち上がりかねない幸村は、あまりの羞恥に顔を赤く染め、大きな瞳に涙さえ浮べている始末だった。
 それをちらりと横目で見ながら、政宗が耳の穴に指を突っ込んで、ふ、と放り投げる。

「風呂なら、俺、小十郎と一緒に入ってるぜ?」
「我は一緒には入らぬ、というか…風呂に入るなど、植物としてどうかと…」

 二人が淡々と応えていくと、幸村は身を乗り出してきた。

「あの、政宗殿、元就殿…」

 ずい、と身を乗り出した幸村の瞳は、きらきらと輝いている。

「一緒にお風呂は、普通の事なのでござるか?」
「珍しくもねぇだろ?」
「そうでござるかッ!某、世間を全く知らなかったでござるッ」

 がばっ、と幸村は立ち上がった。そして拳をぎゅっと握ると、うおおおおお、と天井に向って吼えた。

「あ?」
「ならば暫し御免仕りますッ。佐助殿に報告に行って参りますッ」
「お、おお…直ぐ戻って来いよな?」

 くるん、と背中を向ける幸村は、素早い動きで入り口付近の佐助のデスクに戻っていった。

「佐助殿――ッ!」

 語尾がエコーかかっているように聞こえる中、幸村の背中を見送ったままで、ぽつり、と元就が呟いた。

「のう、政宗よ…」
「何だよ、元就」

 同じように政宗も幸村の、赤く小さな背中を見送ったままの姿勢で相槌をうった。

「幸村の場合、一緒に風呂と云うよりも、あれは…」
「――その先は俺達はまだ知らない世界だ、言うなよ?」

 ――you see?

 けっ、と政宗が吐き捨てる。そして元就もまた、ふん、と鼻息を吐き出した。
その直後、佐助が盛大にコーヒーを噴出したのが眼に入っていくと、二人は肩を震わせて笑っていった。













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