行く年、来る年





 クリスマスも済んだ後は、ばたばたと慌ただしくなっていく。師走は本当に目まぐるしいものだ。仕事納めの翌日――会社で大掃除をしたばかりだが、自宅の掃除に取り掛かる。

「うっわ…換気扇ッ!なんでこれってこんなに汚れるんだろぅ」

 佐助はゴム手袋を装着して、がたがたと部屋の中の掃除に専念していた。
 朝からばたばたと動く佐助を尻目にしながら、幸村は渡されたガーゼでせっせと自分の鉢の葉を拭いていた。
 簡易温室に包まれていた其れは、見事に花を咲かせている。元来、夏の花だと勘違いされやすいが、幸村は周年性の花だ。条件さえ揃えば花を咲かせることが出来る。それこそ、一年中、咲き続けることも出来るらしい。
 だが今までそんな風に調節されたことがなかったから、自分のことだが知らなかった。そして更に気付かない内に、佐助の思惑に嵌って、この年末に花を咲かせることになった。
 幸村の手元では本体が――真っ赤なハイビスカスが、夏と変わらずに咲いていた。

 ――あと蕾が一個、某のこの姿も年末まででござろうな……うん?

 一枚、一枚、自分の身支度を整えるように葉を拭いていると、ふと気付いた事があった。指先が微かに触れた場所に、ぽつん、と小さな膨らみがある。

 ――まさか。

 1DKの部屋の一角でごしごしと換気扇と格闘している佐助を、ちら、と見てから、幸村は首を竦めながら指先の触れた場所を確認した。
 すると其処にはもうひとつの、緑色の硬い蕾があった。

 ――某、結局、佐助殿がお正月休みの間は、ずっと花期かも。

 隠れるようにしてつけていた蕾を指先で弾いてから、幸村は再びガーゼを手にした。そして、念入りに葉を磨いていく。つやつやとした大き目の葉が、拭く度に揺れていった。










「はぁ〜…やっと終わった。床の上も綺麗にしたし…旦那、もうそろそろベッドから降りても良いよ」
「わっくす、とやらはもう乾いたのでござるか?」
「うん。大丈夫だよ」

 佐助は手にカップ麺を持ってベッドに近づいてくる。掃除と言っても、普段見ているだけの幸村にしてみれば、やることがなくて膝を抱えるだけだった。仕舞いには邪魔になってしまってベッドに追いやられていたという訳だ。
 何なら本体に戻っていようかと云うと、それは駄目、と佐助が釘をさしてくる。

「お腹すいたんじゃない?今から作る気力ないから、こんなのだけど」
「かっぷらーめんでござるな?」

 がば、とベッドの上で身体を起こした幸村が、手に受け取ってほわほわと目元を瞬いた。以前、残業中の佐助が食べていたのを思い出してしまう。その時は、栄養あるものじゃないから、と分けてくれなかった。どうやらあまりジャンクフードを幸村には食べさせたくないらしい。
 だが今は二人でベッドの上に座って、ずるずる、と麺を啜っていく。はふはふ、と熱さに必死になっていると、佐助がひょいと指先を動かしてくる。汁が頬にまで飛び散っていたらしい。

「焦って食べなくてもいいよ、旦那」
「む…――だが、熱いうちが旨いのだろうと」
「そうだけどね。あ、そうだ」

 気付けば既に佐助は平らげており、くい〜、とスープまで飲んでしまった。そして思いついたとばかりに、幸村の方へと振り向いてくる。
 ぎし、とベッドがスプリングをきかせて音を鳴らした。

「この間の冬至に貰った柚子、まだ冷蔵庫の中にあるんだよね」
「ああ、あの大きな鬼柚子でござるか?」
「そ。あれさ、お風呂に入れて柚子湯にしない?」
「湯殿に柚子を入れるのでござるか?」

 幸村にしてみれば不思議でならない。小首を傾げていると、佐助が冬至には柚子湯と南瓜だと説明してくれた。
 残念ながら冬至は過ぎて、残りの柚子があるだけだが、それはそれで気持ちの良いものだから、何時入ったとしても別段気にしない。

「だからさ、この後、お風呂に入ろうよ」
「それは構いませぬが…って、まさかっ!」
「そ、一緒に入ろう。ね?」
「えええええええ遠慮致しますッ」

 ぶんぶんと幸村は手を振り回して拒む。一緒に首も左右に振って、全力で拒んできていた。小さな姿の時から、何度も誘っているのに――というか、小さな姿のままなら、お椀に入れてあげたいとか、そんな微かな欲望を持っていたりもするのだが、一向にそれは叶ってはいなかった。

 ――某目玉のオヤジさんみたいな感じなの、似合うと想うんだよね。

 ふにふにとした小さな姿を思い出して、ほんわりと和んでしまう。
 だが今は花期になり、実体化している彼が此処にいるのだ。勿論、其れならば綺麗に洗ってあげたい気もするし、もっと触れ合いたいような気もする。だから何度も誘ってきたというのに、その度に幸村は拒んでくるのだ。

「何でいつも一緒に入るの嫌がるのさ?小さくても拒むんだもん、理由があるんでしょ?」
「う…――ッ、そ、それは…」
「それは?何で?」
「うぅぅ…」

 ぐぐぅ、と幸村が言葉に詰まった。
 押して押して、と佐助は強気になりながら、肩を竦めていく幸村に詰め寄った。そのまま詰め寄りすぎたら、ぼふりとベッドの上に倒れこんでしまうだろう。

「小さい時なんて、普段からお腹丸出しなのにさ。なんでお風呂は嫌がるのかなぁ?」
「は、恥ずかしいのでござるよぅ」

 あわわ、と両手で顔を隠しながら――だが見えている耳が真っ赤になっていた――幸村が力なく叫ぶ。

「その…風呂場は、明るいでござろう?一人なら別に…でも、一緒となると…」

 ――全部見える訳だし。

 たじたじと言葉を搾り出す幸村に、はあ、と溜息が出てしまう。お風呂なんて、セックスしている時に比べたらまだ恥ずかしくないと想うのだが、それはそれぞれの価値観によるものだろう。

「そんなの、もうとっくに観てるんだけど」
「でもッ!恥ずかしくてッ!」

 ばふ、と枕を持ち上げた幸村が、顔を隠しながらごろごろとベッドの上で転げる。ついでに、うおおおお、と叫んでいるところから葛藤が窺えるが、佐助は転げまわる幸村の上から、がっしと掴みこんだ。

「ぎゃあああああッ!」
「旦那、捕獲ッ」

 じたばたと動く幸村を羽交い絞めにしていくと、ぼふぼふ、と彼は佐助の頭に枕を叩き付けた。勢いに合わせて脇腹を擽ると、ぎゃはははは、と笑い転げながら今度は幸村が逃げを打った。

「擽ったいでござる――ッ」
「えーい、もっと擽ってやるッ」

 あはは、と声を出して笑いながら擽り、涙に濡れた幸村がギブアップすると、自然と視線がぶつかった。
 引き寄せられるように、ちゅ、と唇を合わせると、はら、と枕から零れた羽根が降って来た。唇を離して、再び深く口付けると「ん」と甘えたな吐息を漏らしていく。

「旦那…――」

 吐息が触れるほど近くで、声を落として囁く。すると幸村はうっすらと瞳を押し上げた。

「真っ裸なのは俺様もなんだから、一緒、一緒」
「――――…」

 きゅ、と唇を噛み締めながら、困惑したように眉根を寄せる幸村の眉間を、とん、と指先で突くと、佐助は起き上がって風呂の準備を始めていってしまった。










 湯船に入って身を縮めながら背を向ける。背に流れる髪がしっとりと湿気を帯びてくるのを感じながら、ちら、と幸村は肩越しに振り返って佐助を盗み見た。

 ――均整の取れた肉体でござるなぁ。

 そんな風に想って、何度も盗み見てしまう。
 自分たち花の精は本体の影響さながらに、大抵は美しく形取られていくことが多い。特に、薔薇や蘭などは華美で眼を見張るものだ。だが花でもないのに、佐助をみているとこんなに均整の取れた肢体があるのだろうかと想ってしまう。

 ――あの腕に抱き締められたり、触れられると、気持ちが良い。

 それを知ってしまってからは、余計に彼の肢体は幸村にとって眼の毒だ。
 だが佐助は幸村に構わずに鼻歌を歌いながら身体を洗っている。

 ――お背中くらい、流した方が良いのだろうか…でも、それにはまず湯船から出なくてはならぬし…。

 そうなれば自分の身体が光の下に曝け出されてしまう訳で、それを考えると身を小さく萎縮させてしまいたくなる。

 ――せめて、花期でなければまだ良かったかも。

 小さいいつもの姿なら、タオルを引っ掴んで隠れてしまえばいい。だが今はそうもいかない。
 肌に、こん、と柚子が当たって幸村は、ふう、と溜息をついた。

「なぁに?旦那ぁ…」
「べ、別に」

 シャワーで泡を洗い流している佐助が、黙っている幸村に気付いて声を掛けてくる。手に鬼柚子を――半分に切られた鬼柚子だが――持ち上げて、くん、と香りを嗅ぐ。

「柚子、いい香りでしょ?」

 ――少し潰してからいれると良いんだよね。

 嬉しそうに佐助が言うものだから、こくりと頷いてしまう。確かに柚子の香りはとても心地よい。それに身体の芯から温まってくる。ほんわりと柚子に和んでいると、ふ、と幸村の視界に影が落ちてきた。

「はい、詰めて」
「え…っ、あ、わぁっ」

 ――ざぷ。

 振り返る間もなく、佐助が湯船に入り込んでくる。ばしゃ、と身体を動かすが中々想うようにいかない――流石に湯船に二人の男が入り込んだら狭いのは仕方ない。

「はぁ〜、あったかい〜」

 背後に回った佐助が腕を縁に預けて仰のく。身体が密接しそうになって幸村は前屈みになりながら膝を抱えた。
 1DKの佐助の部屋には珍しく、風呂場は意外と広いが、やはり二人で入るには無理がある。幸村は意を決して湯船から出ようとした。

「佐助殿…その、某、上がります故」
「駄目だって。旦那が恥ずかしいって言うから、後ろに回ってんのに」

 ――向き合うと足がぶつかるしさ。

「でも、その…」

 反論しようとした瞬間、後ろから佐助の腕が回ってきて、ぺたり、と彼の胸が幸村の背に触れる。

 ――うわあああああああぁぁぁぁぁ、何と破廉恥なぁぁぁぁぁぁッ!

 内心で叫び捲っていると、くん、と佐助の鼻が動いて幸村の項に触れる。

「あ、旦那も柚子の匂いするね」
「――――ッ」

 びく、と背が震えた。幸村がじっと身体を硬直させていると、何を想ったのか佐助の指先が動き出した。

 ――きゅ。

「あっ、……っ」

 不意に胸元の突起を摘まれて声が漏れる。何事かと想っていると、肩に顎を乗せたままの佐助が探るように背後から手を伸ばして、幸村の両の胸の突起を摘み出す。

「まだ柔らかいかぁ」
「さすっ、…け、殿…――ぅん…――っ」

 彼によって慣らされた其処は、気付けばぷくりと勃ちあがっていく。硬さを伴って、余計に敏感になった其処を、佐助は楽しそうに指でくりくりと捏ねていく。

「ふぁ…――っ、っ、ん」

 きゅう、と引っ張ったかと想うと、ぐに、と押し潰す――胸元に与えられる刺激に、徐々に腰が熱くなってくる。幸村が堪らずに咽喉を仰け反らすと、首筋に佐助がかぷりと噛み付いてきた。

「やばいなぁ…」
「え?――っ、あ」

 するりと動いた片手が、後ろから前に回り、更にその奥に触れてくる。佐助の手首で陰茎が擦られ、指先が置くの後孔に触れると、幸村はぎゅっと眼を瞑った。

「したくなってきた…。触るだけのつもりだったんだけど」
「――…ッ」
「挿れても、いい?」

 耳朶に囁かれる言葉に、ずくり、と下肢が重くなってくる。それと同時に臀部に彼の――佐助の下肢が触れてくる。揺れている自分の腰が、快楽を求めていると気付くと、幸村は羞恥で動きを止めるしかなかった。

 ――くぷ。

「ぃ、っく…ぅ、湯、が…――」

 戸惑っていると、先に、先にと佐助がリードしてくる。湯船から逃げることも叶わずに、微かに腰を浮かせると、佐助の指先が慣れたように中に入り込んできた。

「そんなに締め付けないで」
「だって…」

 ぐにぐにと押し広げられながら、それと同時に熱い何かが入り込んできて――それが湯だと解っているが――ぞくぞくと背が撓る。口からは止め処なく喘ぎ声が漏れてしかたなかった。

 ――ぱしゃん。

 柚子の、甘く爽やかな香りが鼻につく。この香りだけでも酔ってしまいそうになるくらいに、佐助の指先に翻弄されていく。
 既に幸村の好い所を心得ている彼は、適切に其処だけを狙って刺激を与えてくるのだ。

「も…――だめ、だ…――っ」

 んく、んく、と咽喉を上下に震わせると、両手で佐助が腰を掴んで持ち上げてきた。そして上体をぐっと幸村の背に密着させる。背に、佐助の胸元が触れて――彼の胸元の突起もまた勃ちあがっているのが解るほどに触れてくる。
 湯船が足に絡まるが、腰は湯から出されて――尻を彼に突き出すような格好になっている。想像するだけで羞恥で死にそうになるが、ぐっと重ねられている佐助の体温に安心してしまうのも事実だ。

「挿れるよ?」
「――――…ッ」

 ――ぐぐぐ。

 声を出すことは出来ず、挿入に耐える。さもすれば、きゅっと締め付けてしまいそうになる後孔を、ぐいぐいと拡げながら入り込んでくる佐助のそれは、湯よりも熱くて幸村の腰を振るわせた。

「ん…――ッ」

 ――ぐちゅん。

 全て押し込めると、はあ、と息を吐いて佐助が動きを止める。持ち上がった腰を――繋がってしまった瞬間に、ぐっと湯の中に押し込められて、奥に彼の陰茎がぶつかった。

「あぅ…ッ」
「ごめん、痛かった?」
「だ、大丈夫…でござる…――っ」

 ばしゃ、と湯が跳ねた。縁に手を添えて、幸村がぶるぶると震えながら逃げをうつ。すると湯船の中に座り込んでいる佐助が、片腕で幸村の腰を引き寄せながら、片足を持ち上げて縁に引っ掛けた。そして、ずるりと幸村の後孔から自身を引抜きかけ、再び押し込めて行く。

 ――くぷくぷ。

 湯の中で細かく動かされるのが堪らない。幸村は唇を噛み締めながら刺激に震えた。入り口辺りだけを突いて来る動きに、身体の内部も外も全て熱くなっていく。

「あ、熱い…っ、灼けそう…」
「入り口あたりって感じるでしょ?」

 ――此処、旦那が一番感じるところだもんね。

 耳朶を甘噛みしながら、佐助が囁く。彼の声にさえ、身体の芯から感じて仕方ない。

「や、ヤダ…――ッ、ん、んん…」
「旦那も馴れてきたよね」

 ――嬉しいなぁ。

 心底気持ちよさそうな佐助の声に、はふ、と呼吸を整えて振り返った。すると、濡れた髪を上げた佐助が、気持ちよさそうに瞼を落としている姿が眼に入る。

 ――うわぁ、なんて破廉恥な…ッ。

 眦が赤く、朱を帯びて、ほんのりと佐助の肌を彩っている。いつもは観ることの出来ない彼の肌の変化が、ありありと解ってしまうから堪らない。
 ぺろ、と唇を湿らす舌が、やたらと赤く見えて、それだけで背がぶるりと震えた。

「あ、あぅ…――っ、も、もう…」
「達く?いいよ、出していいから…」

 ぐっと腰を進めながら、佐助がうっとりと瞼を押し上げる。視線が合うと、彼は幸村の頭を引き寄せて唇を重ねてきた。

 ――くちゅ、ちゅ、くちゅちゅ、

 濡れた音が響く。それが絡み合わせた舌先から零れているのか、自分の下肢からなのか解らないほどに、耳から犯されていくようだった。

「佐助、さ…すけ…――ッ」
「旦那ぁ…、すっげ、気持ちいい…」

 ばしゃばしゃ、と湯船が跳ねるたびに、柚子の甘い香りが弾けていく。
 感じ入るように搾り出された佐助の声に、ぞくん、と背が震えた。

「あ、あ、…あ、ぁ…――ッ」

 ぶるぶると身体が震えて、喘ぐことしか出来なくなっていく。幸村は湯船の中で佐助に抱き締められたまま、絶頂を迎えていった。










 ぐったりと布団の上に横になっていると、水を持って来た佐助がベッドの下にこしかけた。それをじっと見つめていると、水を差し出される。

「まだ旦那ってば柚子の香りがするね」
「ううう…もう一緒のお風呂はこりごりでござる」
「まぁた…気持ちよかったでしょ?」
「……言わせないでくだされぇぇ」
「気持ちよさそうな顔してたのに」

 笑いを含んだ佐助の声に、幸村はうつ伏せて顔を隠した。正直気持ちよかった――でも羞恥心はぐさぐさと自分の胸を締めつけてきた。未だに恥ずかしくてならない。

 ――でも。

「佐助」
「うん?なぁに?」

 指先を伸ばして佐助の襟足の――まだ濡れている髪を摘んだ。すると、笑いながら佐助が振り返る。そこに向ってそっと顔を寄せて、幸村は彼の耳に噛り付いた。

「――ッ?旦那?」

 驚く佐助の耳孔に舌先を、ぬる、と挿し入れると、びくん、と佐助が肩を震わせた。

「ちょ…ど、どうしたの?」
「その顔でござる」
「は?」
「佐助は、すっごく、いやらしい顔でござった」

 ぷう、と頬を膨らませて見せると、彼は困ったように眉を下げた。そして、ずるりと上体をベッドの上に乗り上げると、いやらしい気持ちに旦那もなって、と囁いてくる。

「今日はもう厭でござる」
「え――――ッ」
「無理矢理は嫌いでござるからなッ」
「解ってるって」

 くふふ、と笑いながら佐助は優しく頬を撫でていく。そして、再びずるりとベッドの下に下りると、彼は口元を吊り上げて笑った。

「でも、元旦はしようね」
「は?」
「初詣行って、御節食べて、そしたらしようね」
「な…何ででござるか?」
「姫初めと行こうよ」

 さあ、と幸村の血の気が引いていく気がした。触れ合うのは嫌いではないが、此処まで彼に求められるのも如何かと想ってしまう。

「佐助殿は、某の身体だけ…」
「違うって。好きだから、もっと触りたいの。ね?」

 優しく眇められた瞳が、じっと幸村の鉢のハイビスカスに注がれる。花期は短い。触れ合える――身体を重ね合わせるのには、期限がある。

「離れたくないくらい、大好きだよ」
「佐助殿…」

 ――こういうの、愛してるって言うんだろうね。

 顔を幸村に向けずに言う彼の耳が、真っ赤に染まっていた。それを視界に収めると、幸村は身体を起こして、背後から佐助にしがみ付いた。

「旦那は綺麗な華だから。だから、皆を引き寄せるけど…」
「佐助殿、その先は言わずにいてくだされ」

 触れた肌に、同じ柚子の香りがする。それを吸い込みながら、幸村が「柚子の香りがしますな」と笑うと、佐助も笑った。

「某が、触れたいと願うのは、佐助だけでござるよ」
「俺に欲情してくれる?」
「年明けから此れでは、と罵られそうでござるが」
「お願い。いやらしい気持ちになって」

 ふふ、と笑いながら佐助が振り返る。彼の鼻先に、微かに浮かんだ汗を指先で拭うと、幸村は「如何致そうか」と業と唇を尖らせていった。
 元旦までは、まだ三日もある。
 年を新たに迎える瞬間、側に居られるのなら、それがどんなものでも構わない気がする。

「はあ、でも俺様、今年はついてたな」
「――…何がでござるか?」

 佐助が背に幸村を背負ったままで、ベッドに寄り掛かった。小首を傾げていると、佐助は「鈍いな」と幸村の鼻先を指の腹で跳ねた。

「だって、愛する人に出会えたんだもの」
「―――ッ!」

 かあ、と頬が熱くなって、目元が潤んでくる。どうしてこういう事をすんなり言ってしまうのだろうか。幸村はわなわなと身体を震わせると、恥ずかしさできゅっと瞼を閉じてしまった。伸びてくる佐助の手の感触を受けていく。

 ――ルルル〜ルル〜

「あ、電話でござるッ!」

 途端に瞳を見開いて言うと、佐助はしぶしぶと――舌打ちをしてから電話を取った。電話の向こうでは、元親が「餅を作ったんだ」と叫んでいる声が聞こえて、佐助も幸村もぱあと顔を輝かせていった。
 ムードは後から着いて来るもの――そんな感じが否めない二人だ。笑いあう二人の横で、二つ目の蕾が、微笑むように徐々に開きつつあった。

















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