Hot,warm,and sweet Christsmas:クリスマスのお話





 結局の処、日付が変わる頃まで語り合ってしまってから、店を後にした。慶次は自転車で帰宅し、他の者達は例のごとくに小十郎の車で送ってもらう始末だった。
 皆を送り届けた後、小十郎は家に入り込むと溜息をついた。しん、と静まり返った部屋に足を踏み入れてから立ち止まると、更に重ねて溜息をついた。

「小十郎…?」
「なんだか、さっきまでの賑やかさが嘘のようだな」
「うん…でもッ!」

 肩口にしがみ付いていた政宗が、ぺち、と小十郎の頬に手を打ち付ける。痛みはないものの、叱咤されたのは事実だ。小十郎が肩から政宗を下ろして掌に載せていると、政宗はぐっと拳を握った。

「誰もいない訳じゃねぇだろ?俺が…」
「――――…」
「俺がいるじゃねぇか」

 ――ひとりなんかじゃねぇぞ?

 言いながら、じわ、と目尻を赤く染めていく政宗に、思わず胸がほんわりと暖かくなるような気がした。小十郎は静かに、ありがとう、と政宗に伝えると、彼をテーブルの上に下ろす。そして部屋の中を暖めながら、さっさと着替えてベッドに横になった。
 どさりとベッドに横になると、全身の力が抜けていき、程よい心地になってくる。

「小十郎…?風呂は?」
「今日はいい。朝に入る」
「――珍しいなぁ」

 ――お前がペース乱すなんて。

 あはは、と笑いながら政宗がテーブルから飛び込んでくる。いつもならば政宗も本体に戻る処だが、枕元によじ登ってきた。

「政宗ぇ…」
「うん〜?」

 くるくると枕もとのベッドを踏み鳴らしながら、政宗が小さな足で、たしたし、と座る場所を解す。そしてすとんと其処に座り込むと、小さな背中が見えた。

「お前、欲しいもの、なかったのか?」
「え…――ッ」
「いや、聞いていなかったと思って」
「――――…」
「政宗?」

 小さな背中がふわりと大きくなっていくような気がした。眠気が襲って来そうになるが、小十郎は何とか瞼を押し上げて――枕に乗せた頭を、横に動かした。

「叶えて、くれるのか?」

 政宗の囁きに、勿論、と答えると、彼はこくりと小さな咽喉を鳴らした。

「それじゃあ…驚かないでくれよ?」
「うん?」

 政宗の言葉の意味が解らなかった。そんなに驚くような願いなのかと首を傾げるが、小十郎は「いいぞ」と頷いた。

 ――ふわり。

 ふと頬に触れた感触に、閉じかけていた瞳を押し上げる。すると目の前に――半分透き通った姿の――等身大の政宗の姿があった。

「――…ッ?政宗?」
「少ししか、この姿、持たないから…」

 触れられているのは解る。細い、それでいてしっかりとした手の感触が、静かに小十郎の頬に触れて、そして瞼の上に降りかかる。
 抵抗もせずにされるままにしていると、政宗の手によって視界が遮られた。

 ――ちゅ。

「――――…」

 柔らかく、儚く、静かに小十郎の唇に触れる――それが、音を立てていく事で、政宗の唇が触れたのだと気付いた。

 ――柔らかい。

 感触が気持ちよくて、もっと触れたいと思ってしまう。咄嗟に小十郎が手を伸ばして政宗の――己に掛かっている手に、手を伸ばそうとした。

 ――べし。

「あ?」

 確かに感触があった筈なのに、手には何も触れなかった。目測を誤った自らの手が、額に打ち付けられる。
 小十郎はがばりと身体を起こして辺りを見回した。今のは夢だったのだろうか――だが、何処から何処までが夢だというのだろうか。

「小十郎〜…ッ!いきなり起きるなよッ!」
「あ、す…すまん」

 心臓がばくばくと音を立てる中、ベッドの下からいつもの小さな政宗が腰を擦りながら、唸ってきていた。ひょいと小さな身体を持ち上げると、政宗は口唇を尖らせて膨れていた。

「まさか…な?」
「何だよう?」
「いや…お前が一瞬、大きくなったように見えてな。可笑しいよな、花期はまだ先なのに」
「夢でも見たんじゃねぇの?」

 今のは何だったのだろうか――狐につままれたような気持ちだったが、小十郎は政宗を枕元において、布団をかけると「寝るか」と溜息をついた。そして頷きながらも、静かに頬を赤らめていく政宗に、小十郎は気付かなかった。










091225/100101up