Hot,warm,and sweet Christsmas:イヴのお話 数日前に「足がだるい」と言っていた元親は、その翌日、まんまと熱を出した。あっさりと熱を出した彼は、診断の結果、インフルエンザと云われてしまい、自宅療養を余儀なくされていた。 「全く、ついてないよなぁ…」 「いんふるえんざだったのだから、仕方なかろう?」 テーブルの上で元就が、お見舞いの苺を手にして振り返る。大粒の苺は小十郎が持ってきてくれたものだった。 熱を出して直ぐに会社に電話を入れたが、そこは土曜日――仕方ないので小十郎に電話した。無論、土曜日から約5日の就業停止だ。 ――何もこんな時じゃなくても。 頭を抱えてしまう。 テレビをつければ解るが今朝からは出勤しなくてはならない。だが今日はイブだ――クリスマスイブなのだ。 街中は徐々に活気に溢れてくる時期なのだ。それがどうだろう――元親はまだ体調が万全とは言いがたい。 「ああ、酒呑みてぇなぁ…」 「元親…貴様、懲りぬのか」 苺を半分くらいまで食べつくした元就が、顔の周りを真っ赤にして振り仰ぐ。指先で元就の顔にくっついた苺の汁を拭ってから、自分でその指をぺろりと舐めてみた。 「お、甘い」 「うむ。これは非常に美味よ」 「まだ残ってたっけ?」 「うむ…箱に半分は」 「だったら今日の宴会に出すか。元就、食べつくすなよ。慶次達の分も残しておけ」 ぎく、と元就が今度は肩を揺らす。今日は仕事終わりに慶次の店で軽くクリスマスパーティをするつもりなのだ。もちろんプレゼントも用意するつもりだったが、まったく準備は出来ていない。 ――つか、気が抜けちまったんだよなぁ…。 元就が花期になるのはもっと先――そう聞いて、少しだけ力が抜けた。もし彼が花期になるのなら、色々と一緒にしてみたいこともあった。 ちらり、と見下ろすと真ん丸い頭の真ん中に旋毛が見える。上から見下ろすと、長い睫毛が動いているのが解ったが、それでも元就は苺を抱えている。 「おい、元就」 「何だ?」 「お前、何が欲しい?」 「え…――」 改めて聞くと、元就は驚いたように、真ん丸く瞳を見開いた。それを見下ろしながら、元親は手元にホットミルクを引き寄せて、中に蜂蜜を入れた。 「何でもいいぞ。好きなものでも…肥料でも、液肥でも、新しい鉢でも…」 「――――…ッ」 「元就?」 もじもじと元就が俯いていく。いつもの威勢の良さが観られない。訝しく感じてじっと見下ろしていると、元就は苺のへたを手にぎゅっと握った。そして小さな声で、近う、と元親に言う。 言われるままに顔を近づけると、元就は顔を上げた。真ん丸の瞳が潤んで、目尻が赤くなっている。そのまま元就は寄せてきた元親の耳元に、そっと囁いた。 ――……。 「ふ…お前、欲無さ過ぎ」 「な、何でも良いのだろう?」 「いいぜ。解ったよ」 ふふふ、と元親が顔を起して微笑む。それを見上げながらも元就は今にも火を吹きそうなくらいに真っ赤になっていった。 了 →クリスマスのお話に続く 091225/100101up |