クリスマスまでにしておきたい幾つかのこと





 クリスマス商戦が近づくと花屋は活気を見せていく。
 それはこの慶次の店でも同様だった。いくら病院の前にあるとはいえ、切花ばかりを入荷するわけではない。ご近所の方々の要望にもお答えしてしなくてはと、ポインセチアやシクラメン、菊なども揃えている。

「ありがとうございました〜。またお待ちしています」

 ぺこりと頭を下げる先には、ポインセチアのツリー状に組まれた鉢だ。年々あれは売れ行きが良くなっている気がする。

「でもポインセチアってさ、熱帯系の植物なんだよね」
「そう…なの?」

 肩にカトレアの精の市が座りながら小首を傾げる。最近では市の定位置が慶次の側になってきている。慶次が外の飾り付けを眺めて、腰に手を当てて胸を張った。

「う〜ん、今年も俺、がんばっちゃったな」

 店に入る入り口にはイルミネーションが出来ている。それにツリーもしっかりと飾っているが――今年は其処に、オーナメントが三つ、それもお揃いの物が下がっていた。

 ――幸村と、政宗と元就の。

 それを眺めていると、少しだけ寂しいような気がしてしまう。今年も実費でオーナメントを色々買い込み、鉢植えの花たちの枝に飾っている。
 因みに肩に乗っている市の鉢には、雪の結晶の形のオーナメントだ。

「ああ…――熱い、熱い…」

 しみじみと入り口に飾っているリースを眺めたりしていると、か細い声が聞こえてきた。厭な予感に、ゆっくりと首を廻らせると――店の入り口の花壇に植えている弦バラが眼に入った。

「熱い…イイですね…――ふふ、ふ、ふふふ」
「――みっちゃん…」
「明智さま…?」

 声の方へと近寄ると、市が慶次の髪に隠れるように動いた。小さな手を慶次の頬に当てて、耳の後ろ辺りに身を寄せる。
 弦バラには電飾を一緒に絡めている。繊細な花だが、弦が頑丈なので毎年しているのだが、今年はその花の精の光秀がやたらと興に入っているようだ。

「ああ、イイですねッ!これはイイ…ッ!あぁ……」
「光秀〜、そんなに電飾熱い?」
「おや、これは前田殿。それほどでは」
「だったら何さ、それ…」
「いえ、電飾がこの寒空の下であまりにも心地よくて、心地良くてですね…ふ、ふふふふふふふ…」

 くっくっく、と長い銀色の髪を揺らしながら彼は笑っている。肩にはバラのような棘を持ちながら、ふらふらと自分の弦の上を歩いていく。

「ほっとくか…」

 慶次が、駄目だこいつ、と言いながら店内に入っていくと、ふわり、と暖かい空気が迎えてくれる。すると市もほっとした顔をして、ひょい、と作業台の上に降りた。

 ――かららん。

「いらっしゃいませ〜」

 声を上げると、寒さに肩を竦めた佐助が小走りで入ってくる処だった。

「どうも!注文したの、届いた?」
「あ、佐助。勿論、届いてるよ」

 作業台の下から注文された簡易温室セットを取り出すと、佐助は嬉しそうに微笑んだ。

「これ、幸村のため?」
「そ。あと…ちょっとした陰謀?」
「――あ、なんか分った」
「やっぱり?」

 へへ、と佐助は笑いながら財布を開いていく。そして「クリスマス、皆でまた騒ごうよ」と慶次を誘ってきた。勿論、慶次も異論なく頷いていく。

「でも、早いもんだねぇ…もう年末だもんね」

 そう言いながらレジ上の棚の方を見上げる――其処には幸村がいた場所だ。同じように佐助もそこを見上げながら、うん、と頷いていった。











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