クリスマスまでにしておきたい幾つかのこと





 幸村は夏の赤い花。
 そう思っていたのはつい先日までだった。

 ――え、幸村は周年性だから、条件さえ揃えば咲くよ?

 慶次の衝撃の告白に、幸村共々驚いたのは最初の花期を終えた頃だった。それから佐助は徐々に幸村の性質を把握しながら、極月を迎えていた。

「ただいまぁ、旦那ぁ〜」

 かちゃん、と鍵をあけて中に入ると、奥の部屋から「おかえりでござるっ」と嬉しそうな声が響いてきた。
 外は寒気が身を切るようだが、この部屋の中はいたって暖かい。

 ――今年は電気代なんて気にしないもんねっ。

 佐助は付けっぱなしの暖房を見上げながら、心裡で呟く。ついでにハロゲンヒーターも購入した彼は、随分と暖かい居室にほっと胸を撫で下ろした。
 去年までなら、節約だと言い張ってマイナス気温になるまでは暖房をつけないと、意地になってみたりもしたほどなのに、この変わりようは如何だろうか。
 今年は暖冬だというのに、保温に余念はない。

「外は寒かったのではござらんか?」
「うん、まあね。空気が冷たかったよ」

 うがい手洗いを済ませてから、ベッドに寄り掛かって座ると、いつものローテーブルから幸村が飛び込んできて、佐助の頬に手を当てた。
 小さな手が、佐助の頬に触れると、彼は「ひゃ」と声を上げた。そして鼻先に額を擦りつけ始める。

「――?旦那?」
「少しでも温まればよいのだが…」
「旦那ぁ、何可愛いことしてんのさ?」

 あはは、と笑いながら彼の身体毎頬にすりよせると、今度は「ぴぎゃああああ」と奇声を発する。その加減はよく解らない。

「それにしても、此処最近、部屋が暖かいのでござるが」
「うん、だって旦那、寒いの苦手でしょ?」

 ――簡易、温室セット買ってきたよ?

 ひらりとリュックから取り出したのは、鉢にかけられるビニルシートだ。それを見つめて、幸村は「ふおおおおお」と悦んでいる。
 勿論、慶次の店から取り寄せた此れは、鉢の上からすっぽりと被らせるものだ。

「なんと…なんという、お心遣い…某、感動致しました…っ」

 くう、と涙を拭う仕種をしながら、幸村がテーブルの上に仁王立ちする。それを見つめながら佐助はにこにこと嬉しそうだった。

 ――この分だと、旦那、花期になりそうだよね?

 本人は気付いていないようだが、葉がきらきらとしてきている。そして天辺に小さな蕾のようなものが出来てきている。それを眺めながら、そっとビニルシートをかけて佐助は幸村を振り仰いだ。

「どう?旦那」
「ううう、気持ちいいでござる」

 流石は花の精――本体のへの影響は顕著なようだ。幸村はほんわりと頬を膨らませて、にこりと微笑んだ。それを見つめながら、佐助は「さてと」と腰を上げた。

「ねえ、旦那」
「何でござるか?」
「今日は一緒にお風呂に入る?」
「めめめめめめ滅相もないっ!」

 ぎゃあ、と顔を小さな手で隠す幸村を横目で見つめながら、佐助はいそいそとバスルームへと足を向けた。壁にかけたカレンダーには花丸が一つ――その日に、幸村と過ごしたくて、こんな裏工作をしている訳だが。

 ――まだ気付かないでね、旦那。

 悪いとは想いつつ、内心でそう嘯く。佐助は月末を想像すると、ふふ、と鼻歌を歌い始めていった。










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