クリスマスまでにしておきたい幾つかのこと 「なんか足がだるいんだよなぁ…」 仕事から帰ってきた早々に、元親はそんな風に呟きながら、いつも通りにリラックスウェアに着替えてから、手に缶ビールを持ちながらリビングへと足を向けた。 「貴様、またもビールか…先日、散々呑み捲って吐いていたのはどこのどいつだ」 「え?知らないね、そんな昔のこと」 塩辛を出しながらテーブルに着くと、ぺしぺし、と腿を叩きながら元就が説教を垂れて来る。先日、自宅でおでんパーティをした際に、結局朝まで呑んでしまって大変なことになった。相手をしてくれていた慶次は元気に介抱してくれ、佐助はこたつで寝ており、小十郎はお客様用の布団で静かに休んでいたくらいだった。 その背後で、慶次と元就の会話を微かに覚えている。 だが、元就はそんな事をすっかりと忘れているようだった。 ――俺は忘れていないんだけどな。 きりりと眉を釣り上げて、元就が元親からビールを遠ざけようと動く。それを眺めながら、暖めておいたレトルトのパスタを口に運んだ。 「なぁ、元就〜?」 「何だ?」 「お前、何時になったら咲くの?」 「――――…」 腕をテーブルに乗せて、視線を同じ高さにしながら問う。すると、元就はひらりと手を下に下げてから、くるりと元親に背を向けた。 「そなたも、咲かねば用はないと申すか」 「違うって」 「だが…」 背を向けた元就が――どんどんその背を小さくしていくかのようだった。元就の品種は強烈なアピールをする花だ。季節になれば誰しも酔いしれる華だ。だが、それ以外では――ただの樹木と同様と取られることも少なくない。 「ただの興味だって、ただの…さ」 「元親…何ぞ、我に隠しては居らぬか?」 元就が静かに振り返る。手元には元親から取り上げたビールの缶がある。それを元親は上からひょいと掬い上げて、こくこく、と飲み干した。 「隠し事はねぇけどよ、お前が咲くのが今なら…色々、連れて行きたいところがあってさ」 「――このままでも着いていけるが」 「でも、隣を歩けたら最高かなって、佐助達見てて思っちまって」 箸を手繰り寄せてから、塩辛を口に含む。すると元就が眉根を寄せたまま振り返り、ととと、と元親の側にくると指先をびしりと彼に突きつけた。 「残念だったな、長曾我部」 「――――…」 「我が咲くのは、早くて皐月か、水無月…来年の事よ」 箸を咥えたままの元親が止まる。そして、はあ、と溜息をついてから肩を落とした。 「そっかぁ…じゃあ、ホテルはキャンセルだな」 「は?」 「あと、ディナーもキャンセル。それから、クリスマスクルーズもキャンセル」 「な、何を言っておる?」 訝しく元就が見上げてくる。その小さな身体を――首根っこをひょいと摘みあげて、元親が残念そうに溜息をついた。吊り上げられた元就は不機嫌そうにしているが、視線がぶつかるのは当たり前だ。 「お前がもし、花期になるなら、一緒に過ごそうと思って予約してたんだよ」 「ほかに好いた女子くらい居ろう?」 「――俺、結構草食なんでね。自分から声かけたりはしねぇの」 「ならば…――っ」 じたじたと元就が手足を動かす。そのまま元親は元就を両手で包み込むと、自分の額に彼を押し付けた。 ――ごつんっ。 あまりの勢いに元就が「うっ」と声を上げて眼を回す。そうすると口答えをする間もなく、掌の上に元就は転がった。 「仕方ねぇから、ケンタのチキンバーレルにするわ。それでいいよな、元就?」 「う、うむ…」 「その代わり、ケーキはホールで用意するからよ」 ――今年は一緒に過ごしてくれよ。 くらくらと揺れる頭を支えながら、元就は頷いた。それを見下ろしながら、元親はもう一本、ビールを空けていった。 了 091219/091227 up |