今年もあと少し すいすいと動く車の中で、政宗が窓にしがみ付いていた。何か面白いものでもあるのかと信号が赤で停まったときに聞いてみた。 「凄いんだ、なんで夜がこんなに明るいんだ?」 「ああ、年末が近いからなぁ」 青く光るケヤキ並木を見上げて、政宗が瞳を白黒させていた。11月に入った途端、町の至る所で木々に電灯が灯されていく。 「でも電球の熱が、お前達にはあまり良くないんだよな」 「――…そうなのか?」 「何だ、知らないのか?」 「俺たちは自分以外の奴らの事なんて、あんまり知らねぇからな」 窓辺から飛び降りて、政宗は助手席の真ん中に胡坐をかく。そして腕を組むと、うんうん、と頷いた。 ――立ち枯れしたりする原因になっている、って教えないほうが良いか。 小十郎はそんな風に考えながら、車を滑らせていく。すると政宗は、小十郎、と呼びかけてきた。 「俺、早めに咲きたいなぁ」 「どうしたんだ?急に」 「だってよぅ…その、こんなに綺麗な外なら、一緒に歩きたいじゃねぇか」 「――…ッ」 アクセルを思い切り踏み込んでしまいそうになった。小十郎が内心で慌てているのなど気にもしていないように、政宗は今度は足を伸ばしてぱたぱたと動かしている。 「でも俺が咲けるのって、来年なんだよなぁ」 「うん?今頃からじゃないのか?」 「それは別の花だ、馬鹿」 ――俺は冬場の花だからな。 ふう、と残念そうに政宗は俯いた。それを横目で見てから、小十郎は手を伸ばして政宗の頭をなでる。すると見上げてくるのが解った。 「小さくても、咲けていなくても関係ねぇ」 「小十郎…」 「今年は一緒に、クリスマスも、新年も迎えような」 「Sure…」 へへ、と嬉しそうに瞳を眇めて、政宗は小十郎の手に自分の手を添えると、指先に頬を摺り寄せていった。 時々、殊勝になる政宗に、次第に振り回されてきている自分に気付きながら、小十郎は自宅へ向かって、イルミネーションの瞬く道を車を滑らせていった。 了 091108/091217 up |