今年もあと少し




 木枯らしに首を竦めながら、首元が寒いなぁ、と思い始める。
 年末が近づいてくるのを、仕事量の増加で感じながら、佐助は駅からの道をてくてくと歩き始めていた。すると背中に背負ったリュックから、たしたし、と小さな手が佐助の首元に触れてくる。

「佐助殿、佐助殿ッ」
「旦那ぁ、寒いから中に入ってて」

 首を廻らせてリュックから顔を出している幸村に言う。幸村は佐助の言葉とは逆にリュックから這い出てきて、うんしょ、と声をかけて佐助の肩の上に乗った。
 むき出しの腹を見ると、寒いだろうに、と思わずにはいられない。肩に乗った幸村に気を配りながら、ゆっくりと歩いていると、ぴゅう、と風が吹いた。

「うお、さぶぅ…――ッ」
「だから言ったでしょ」

 ぶる、と身体全体を震わせて幸村が身体を縮める。佐助は肩に乗っていた彼を掌に乗せると、自分の懐に納める――着ていたパーカーのジッパーをぐいと上げて、胸元で止めると、幸村が両手を引っ掛けて其処にぶら下る。どう観てもぬいぐるみのような状況だ。だが服の中では幸村の足元が、もぞもぞと動いている。

 ――昔、こうやって子犬を暖めたような。

 ふと思い出してほくそ笑んでいると、幸村がやっと落ち着いて見上げてきた。

「どうかしたの?」
「――きらきら」
「え?」

 突発的な彼の言に、問い直すと、幸村は顔をふいと前の方へと向けた。導かれるように佐助もまた幸村の視線の先へと視線を流すと、其処には住宅の庭が広がっている。

「わぁ……」
「キラキラでござるッ!」

 目の前に住宅街のイルミネーションが広がる。
 いち早くクリスマスイルミネーションが繰り広げられる住宅街に、眼をぱちぱちと瞬いた。幸村もまた珍しいものを見るように、瞳を輝かせている。
 いつもの、通りに聳え立つ松の老人も、木蓮の女性も、弦バラの垣根の子達も、きらきらと人工的な灯りと一緒に輝いているように見えた。

「凄いでござるッ!」
「そうだねぇ」

 いつもの通りが急に夢の国への入り口のようになってしまっていた。ゆっくりと歩みを進めていくと、再び冷たい風が頬を撫ぜていく。佐助も幸村も思わず瞳を瞑ってしまう。
 だがその直後、二人の目には暖かそうなノボリが眼に入った。

「旦那、寒いからおでん買って帰ろうか」
「そ、そうでござるなッ!」

 ぶるる、と首を竦めて幸村が頷く。イルミネーションを通り過ぎて、二人はコンビニの中へと足を踏み込んでいった。












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