佐助観察日記





 某、只今、自転車と云うものに乗っておりまする。初体験でござる!
 よく慶次殿が店に来る時には、この自転車と云うものにのってござったが、まさか某が乗ることになるとは思いませなんだ…ッ!

「旦那ぁ、大丈夫?飛ばされてない〜?」
「だだだ大丈夫でござるぅぅぁぁぁあああああッ!」
「あははは、楽しんでるみたいねぇ?」

 きこきこと自転車をこいでいるのは佐助どのでござる。今日は休日ということで、近くの公園に――といってもかなり大きな公園らしいのだが――ぴくにっくとやらにいくと云っていた。
 自転車の荷台の上には弁当箱の入ったリュックと、その取っ手に捕まる某がいるわけだ。

「ふおおおおおおおおおおっっっ」

 取っ手に捕まっていると、びゅん、と身体が浮く。

「マジで落ちないでよ?」

 きっ、と音を立てて自転車を止めると、佐助殿は某の鉢巻を器用に解くと、なんと某の腹と取っ手を縛り付けてしまった。

「佐助殿、何をなさるか!」
「だって飛ばされそうなんだもん。こうしておけば大丈夫でしょ?」
「く…屈辱でござる…ッ」
「はいはい、わがまま言わないの」

 時々佐助殿は意地悪と思うのは、某だけでござろうか…しょぼん、と項垂れていると再び自転車が走り出し、びゅん、と某は風になびかれるままにされていった。









 公園内は芝生が気持ちよく、佐助殿はそのまま大の字になって寝転んでしまわれた。そのまわりを、とてとてと歩いてみると、小さなクローバーたちがござった。

「もし、もし、クローバー殿」

 声をかけてみると、クローバー達は某のほうをみてくれた。

「申し訳ござらんが、四つ葉殿がござったら、某にわけてくださらぬか?」

 某の腰の辺りにまで群生するクローバーに話しかけると、ひそひそ、と声がする。そして、ふわん、ともやもやした形のクローバーが現れた。
 ぷち、とひとつのクローバーが差し出される。それをありがたく頂戴しながら、再びとてとてと歩いて佐助殿のところにいくと、既に弁当を拡げてござった。

「旦那、何処行ってたの?食べよ?」
「佐助殿ッ、これを!」

 ずい、と後ろ手に隠していた四葉のクローバーを差し出すと、佐助殿の顔がほんわりと微笑んだ。

 ――この顔が好きでござる。

 柔らかく、瞳が弓のように撓る、この瞬間の表情が好きでござる。

「それ、俺様に?」
「幸せを呼ぶのでござろう?某、佐助殿が幸せになってほしいと…わっ」
「ありがとう、旦那」

 ひょい、と持ち上げられて頬に引き寄せられる。どうしても恥ずかしい気持ちになるのだが、佐助殿は某をよくこうして引き寄せてくださる。

「でも、俺様今すごく幸せだよ?」
「――…?」
「旦那が来てくれて、俺様すっごく幸せ」

 ――うわぁぁぁぁッ!

 恥ずかしい!
 思い切り佐助殿に満面の笑みで言われてしもうたッ!某の小さな手では顔など覆い切れぬが、隠れてしまいたい気分だった。だが佐助殿は、再び「ありがとう」というと、某の前に弁当の具を山のように積んでくださった。
 まったく、佐助殿は某を甘やかすのが上手だ。かくなる上は、花期には存分に恩返しをせねばと思う次第でござる。











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