元就観察日記





 元就の朝は日の出と共に始まっているようなんだ。俺が寝ていても、時々「日輪よ!」とか叫ぶ声が聞こえてくるんだぜ?

「さってと、今日は此れを観るか」
「映画か…悪くないな」

 借りてきたDVDを取り出すと、元就も立ち上がった。先程までテレビを食い入るように見ていたくせに。しかも盆踊りみたいな踊りを踊っていたくせに。

「元就も見るだろ?」

 ぽふ、とソファーの横にクッションを倒して、その上に座らせた。
やっぱり休みの日は、遅寝、昼酒に限る。そのまま冷蔵庫へと向かって、ビールを手にして戻ってきたら元就は瞳を光らせた。

「元親、あまり飲むと腹が出るぞ」
「お前、花の癖になんでそんなこと知ってんだよ?」
「前田が良く言っておった」
「慶次が?なんて?」
「仕事が終わった後のビールはうまいが、呑みすぎると腹が出る、と…」
「へぇ…今度、飲みに誘おうかな?」

 ぷし、と小気味良い音を立ててプルタブを開けた。こいつにもいつか酒でも飲ませてやろう。

 ――そしたら小言言わなくなるかもなぁ。

 クッションの横に座って、時々ビールに口をつける。やっべ、摘み忘れた。
 のそりと立ち上がって燻製を取ってきたが、元就は画面にご執心だ――ほんとにすごい集中力だよな。
 とび色の瞳をきらきらさせて観ているものだから、邪魔はしたくない。いや、出来やしない。

「次、どれ見る?」
「任せる。おい、元親、飲みすぎだ」

 目の前に転がった空き缶が、元就に見つかってしまった。

「そうでもないぞ。ってか…お前も呑めればいいのに」
「我は花ぞ…飲むわけなかろう?」
「花期になれば?」

 とりあえず聞いてみると、元就はぐっと言葉を詰まらせた。その合間にも、一口、ビールを流し込む。

「花期ならば…可能性もあるかもな」
「だったら、花期になったらさ、一緒に呑もうぜ?」
「む…確約は出来ぬぞ」
「俺、お前を抱き締めてみたいなぁ…」

 いい様に我に手を伸ばして頭を上からぐりぐりと撫でてみた。抵抗するように手に力が返って来る。こういう意地っ張りなところが可愛いんだよなぁ。

「なななな何を申すかッ!これ、触れるな、馬鹿者ッ」
「だって、こうして触っても気持ちいいんだ。でかいなら尚更じゃね?」

 じたばたしている小さな身体――それも、ふにふにしていて気持ちいい。もっと触らせてくれれば良いのに。

 ――ま、花期になったら厭と云うほど撫で尽くしてやろうかな。

 今でもこんなに柔らかいんだ。期待できるはずだろう。そんな事を考えていると、元就が何かまた小言を言っていた。半分聞き流して、俺は四本目のビールを空けて行った。






091108up