小十郎観察日記





 小十郎の朝は意外と早い。
 朝起きてから、ぼんやりと暫く時計を見つめてから、俺を見て、そして一度瞼を落としてから、くわ、と起き上がる。そしてもそもそと着替えを始めるが、最初は大抵スポーツウェアだ。

「行って来るな」

 俺が応えずに枕元で見上げていると、大きな手で頭をなでてくれる。むにむにと動かされるものだから、思わず頭を寄せてしがみ付きたくなるのに、こいつはさっさと出て行ってしまうんだぜ?

「…い、行って来いよ…」

 ぼそり、と呟くと――どうしていつも声が小さくなっちまうのかなぁ?――小十郎はそのまま外に出て行く。どうやら朝のジョギングに行くらしい。俺はその間に、枕元からテーブルの上に移動して身支度を少し整える。

 ――葉が下に向いていたりしていると、ちょいちょい、と撫でつけて均すんだ。

 そうすると、ぴしん、と背筋も延びるというものだ。
 ものの30分から1時間くらいで小十郎は戻ってくるけど、そのまま大抵風呂場直行だ。出てくるとまっさきに俺に水をくれる。

「小十郎、お前毎日毎日、同じ生活で飽きねぇ?」
「別に。リズムが整っているほうが体調も良いしな」
「ふぅん?」

 鉢植えに水をくれながらも、小十郎はPCでメールチェックだ。

 ――まったく良く働くもんだぜ。

「政宗、今日はどうする?着いてくるか?」
「ん?んー…そうだな。着いていってやる」
「じゃあ、車でいくか」

 髪の毛を拭きながら小十郎が云う。着いていっていいと云われて、思わず足踏みしてしまう。

 ――そういえば、まだ今日は…

 ふと思い立って手を伸ばしてみると、小十郎がこっちを見下ろして固まった。

「小十郎…」

 手を伸ばして、ぴょんぴょん、とその場でジャンプする。それでも小十郎に届かないのが悔しい。

 ――花期になれば届くのにッ!

 そうなれば、こうして強請らなくても自分から触れることなんて容易い。俺が一生懸命に腕を伸ばして、ん、ん、と勢いをつけていたら、小十郎が笑った。

「――ふ、お前…ホントに…」
「何だよぅ?」

 気付いて俺を持ち上げて、顔の高さに連れて行ってくれる。そうすると小十郎の表情がよく解る。

「いや、可愛いなと思って」
「――――…ッ」

 小十郎は俺を目の前に連れて行くと、ふふふ、と笑って指先で頬をなでてくれた。俺はその指先にしがみ付いて、改めて「Good Morning」と挨拶をした。

 ――朝の挨拶は大事だ。

 ついでに飛びついて頬にキスしてやろうかとも思ったが、それは花期のお楽しみに取っておくことに決めた。

「おはよう、政宗」

 やさしく挨拶する小十郎に、こくりと頷く。まったくこいつは規則正しいにも程があるぜ。










091108up