はじめての夜の話


二話:




「風邪を、引くぞ」
「うん?」

 肩に手が添えて揺さ振ると元親はぼんやりと瞼を上げた。そして手を動かしていく。

 ――やれやれ、しかし我ではこやつを抱えられぬ。

 ふわ、と力を込めて身体を彼と同じくらいの大きさにしたのは良いものの、流石に非力だった。仕方ないので元親を起して行く事にした。
 すう、とさもすれば消え入りそうな姿だ。元就は先日まで花期だった為に、今は休んでいる状態だ――実際この姿を保つのは、かなり労力を使う。
 そうしている間に元親がビールの缶を転がしていく。

「やべ…――、あぁ、もう眠ぃ」
「眠るのか?眠るのなら、寝床に行くがいい」
「解ってるよ」
「咽喉、渇いた」
「水でも、寝床に持っていけばよいだろうが」

 そっと手を伸ばして頬に触れた。すると急に抱え上げられる。

「寝るッ!」
「――な…貴様、何をッ!」

 元就が慌てる間にも元親がぎゅうぎゅうと抱きしめてくる。

 ――こいつ、我を何だと思っておるのか!

 べし、と腕で元親の頭を叩くが余計に元親は、暴れんなよ、と言いながら抱きしめてくる。そして水を手にばたばたと動く――しかし時々、へた、と力尽きる。ようやく寝床に辿り着いた時にはちゃっかりと彼の水は元就の手にあった。
 元就はその水に手を伸ばして、かすがに貰った露を中に落とした。

「あ?――…なんか、この水…」

 元親が瞑った瞼のままで呟く。抱きしめられている身体を彼からすり抜かし、元親のくせのある髪を指先で掬う。

 ――全ては目が覚めてからよ。

 彼が元就を見ることが出来たら――そうしたら構ってやろう、と元就は口の中でほくそ笑んだ。そして次の瞬間、ぽん、と身体が縮んでいった。













090831/090928 up 第一話の夜のお話。