貴方の目に映りたいのです 彼の手に抱えられて車に乗り込んだ。 慶次の手から小十郎の手に鉢が移ったとき、小十郎の手が優しく――壊れ物を大事に包むように優しく触れてきてくれていて、どうにも胸がきゅんとなった。 車の助手席にそっと鉢が下ろされる。 枝の天辺に座って政宗は車を走らせる小十郎を見上げた。 ――こっち、見ねぇかな? 伝われと拳を握り締めて、うーん、と唸ってみても彼には届かない。政宗はかくりと肩から力を抜くと、ふう、と溜息をついた。 ――普通の人間にゃ、俺達の姿なんて見えないんだもんな。 それを痛感する。だがそれでも良かった。彼が自分を欲しいといってくれた。傍に置いてくれるのだ。それだけでいい。 政宗は、きゅ、と拳を握ると、ぴょん、と枝から小十郎の腕に飛び乗る。そして、もぞもぞと彼の腕を上り、肩に腰掛けた。 ――こんな間近にいるんだぜ? ひた、と小さな手を小十郎の頬に当てる。そして寄りかかるように身体を彼の首に預ける。 ――なぁ、気付いてくれよ。 祈るように手を伸ばして、額を彼の頬に押し付ける。此方からは触れられるのに、知覚していないものには感じられないのだ。だから小十郎は政宗に触れられていることに気付いていない。 車は振動もなく、するすると動いていく。 ――俺、嬉しかったんだぜ? 伝えたくて堪らない。嫌われてしまったと思っていたのに、彼にどうしても貰って欲しかった。彼の傍に居たかった。 「花が、一目惚れなんて可笑しいよなぁ?」 声に出してみても小十郎には届かない。それが切ない。政宗はまるで猫のように彼に擦り寄った。 ――いつか、いつか俺のことに気付く日が来ますように。 そう願ってしまう。彼がこれから歩む時間に、共にいられることを願う。そうしている間にマンションに着き、小十郎はほっと息をつくと鉢を先に寝室の窓の近くに置いた。そして徐に葉に触れてくる。 ――うわっ。 政宗は吃驚して彼を鉢に座りながら見上げた。 「なぁ、お前…俺のとこに来て良かったか?」 「――……ッッ」 小十郎の声が優しく語り掛けてくる。政宗は堪らず彼の――葉に触れる指に両手を当てると、瞼を閉じて頷いた。 「俺、あんたの処に来れて良かったよ。良かったんだ。なぁ、俺を大切にしてくれよ?」 言いながら胸がふわりと熱くなる。小十郎は一度、葉を撫でるとそのまま立ち上がっていった。その後姿を政宗はただじっと見つめていった。 了 090824 web拍手/090913 up |