また逢えますように





 最初に店にその男が訪れた時には、なんと不釣合いな、と思った。
 花を選ぶ者たちを他所に、その男の視線はこの花屋全体に及んでいる。そして鉢植えを一つ一つ見て回ったり、肥料の棚さえも見て回っていた。
 まるで目新しいものを見つけた子どものようだと思った。

「お…これ、いいな」

 不意に頭上から声が降ってくる。何事かと見上げると、其処には銀髪の――そもそも人間自体が大きいのだが、大男が此方を見下ろしていた。

 ――我を見下ろすとは、何と無礼な。

 ふん、と鼻を鳴らしながら胸を張って彼を睨み上げた。すると彼は慶次に向かって話しかけて行く。

「鉢植えか…この店、結構鉢植え多いんですね」
「ええ、俺の趣味みたいなもので」
「へぇ…これ、綺麗な葉ですね」

 ――ふわ。

 彼の手が伸び、元就の葉に触れた。元就がびっくりして彼の方を振り仰いだ。その様子に慶次が気付きながら彼に残念そうに言う。

「それ、もう花期終わってしまって。咲くのは来年なんです」
「へぇ…でも、綺麗だ」

 指先で色の浅い、新しい葉を撫でる。その手が艶やかな緑の葉に触れる。

 ――我の葉に、触れるとは…

 その手に傷を作ってやろうかとも思った。だが柔らかく、優しくなでる手つきに、ふんわりとそんな棘棘しい気持ちが薄らぐ。

 ――ふん…たまにはいいか。

その仕種に、根元に座っていた元就は瞼を眇めた。そして元就は根元から、ぴょこん、と飛び降りると彼の指先に両手を伸ばした。そしてその手に擦り寄るように身体を寄せる。

 ――何だかこの者の手は、暖かい…日輪のようだ。

 昼日中の太陽――それを感じるかのように、温かくてその手に包まれていたくなる。元就が珍しくも彼の手に両手を伸ばして触れて行く。だがそれも慶次が花束を作ってしまうまでだった。

 ――ふい。

 ふんわり、と彼の手が離れていく。それに名残惜しくなりながら、その指先が離れるまで元就は彼の指を握っていた。

「また…いずれ」

 小さく呟く。元就の視線の先の銀髪の青年が――元就の声が聞こえたかのように肩越しに一瞬振り返っていった。








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