花と僕





 家に変な花が来た。
 いや、変でもない。欲しくて手に入れた一鉢だった。だけども、それにはオプションが付いていて――おかげで花の精なるものが見えてしまうようになってしまった。
 ことん、ことん、と電車に揺られながら担いでいるリュックを気遣う。
 目深に被った帽子の下から、そっと肩越しに覗くと、幸村が顔を出して周りをきょろきょろと見ていた。

「幸村、あんまり顔出さないの。見つかったらどうすんの」
「大丈夫でござる。そうそう見えるものがいる訳ではござらん」

 気付いて幸村が頬を紅潮させて肩によじ登ってくる。

「駄目だよ、落ちたら大変だから」
「――某…佐助殿の傍が良いのでござるがぁ…」

 ぷくん、と頬を膨らませて見上げてくる顔がやたらと幼い。小声で話していても、他の人からしたら独り言にしか聞こえないだろう。
 佐助は肩に触るふりをして、そっと手に幸村を乗せると胸ポケットに入れた。

「これでいいでしょ」

 こくん、と幸村が頷く。だがポケットから顔を覗かせて、発車ベルに「ふおおおおお」と驚く様や、目まぐるしく変わる景色に眼を回している姿を見ていると、笑いがこみ上げてくる。
 目的の駅に出てから、佐助はその場でしゃがみこんで腹を抱えた。

「ど、どうかしたのでござるか?」
「いやぁ…ハハハ、幸村、可笑しすぎるッ」
「む?某がでござるか?」

 何が何だかわからない、と首を傾げる姿がまた可愛らしい。指先で幸村の頬をなでると、うっぷ、と口をへの字に曲げる。それがまた面白くて、ぷにぷにと頬を弄っていくと流石に幸村が怒って、胸ポケットから飛び出してきた。

 ――ぼすっ。

「あまりからかって下さるなッ!」
「はいはい、御免ね」

 佐助の頬に華麗なまでの足蹴りを食らわして、ぷんぷんと怒る姿には、貫禄もなにもない。佐助は再び彼をポケットに入れると、改札に向かって歩き出した。









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