女には女の事情ってものがあるのよ 佐助が長期任務に発ってしまってからというもの、暫くのうちは一人寝も寂しいものと思っていた。しかしそれも一月も過ぎれば慣れてしまう。しかしそんな中で少しだけ変化してしまったものがあった。 「――…苦しい」 ぎゅうぎゅうと胸元を締め付けられて呻く。しかし侍女は手を休めることもしない。 「これ、それほどに締め付けるな。息が出来なくなるであろう?」 「あら、何時もは此れくらいは余裕でございましたのに。お胸が大きくおなりなのでは?」 「これ以上大きくなっている筈は無かろう。要因が思いつかぬわ」 少しだけ手を緩められて、ふう、と息を付く。すると侍女はじっと幸村の胸元を見詰めた。そしていそいそと戦装束を持ってくる。 「幸村様、これを試しに着てくださいませ」 「何故だ?戦はなかろう?」 「いいえ、万が一もございます」 きりりと眉根を吊り上げられて言われては断れない。幸村はしぶしぶながら、露出の激しい戦装束に着替えた。 「なにやら此れを着ると…政宗殿と手合わせをしたくなるな」 「お止めくださいませ。冗談ではなく、奥州の独眼竜がお館様に謁見する為に来ていると専らの噂…」 「なれば好都合ではないか!」 身を乗り出すと、むに、と胸元を押し返された。正面に居座る侍女は神妙な面持ちだ。 奥州の独眼竜――奥州の国主であり、幸村の好敵手だが、滅多に手合わせをすることなどない。これを好機と見ずしてどうする。幸村は善は急げとばかりに飛び出そうとしたが、それを侍女に押し返された。 「幸村様…やはり」 「何だ?」 「お胸が大きゅうなられておいでです。装束からはみ出しておりますよ」 「な、なんだと?」 言われてから自分の胸元を見下ろす。そして腕を持ち上げてみると、乳房の下の部分がぺろんと捲れた。 「うわああああ、何たる破廉恥なっ!」 慌てて幸村が胸元を押さえる。しかし、今度は上のほうから、たぷんと揺れて零れそうになる。幸村がぎゃあぎゃあと叫んでいるというのに、侍女はなれたもので小首を傾げるばかりだった。 「しかしおかしいですわね。佐助さまが不在と云うのに…」 「何故其処に佐助が絡んでくるのだ?」 半分涙目になっていると、侍女は満面の笑みを向けてくる。 「お胸は殿方に大きゅうして頂くのが定石でございますゆえ…」 「破廉恥なぁぁぁぁ」 幸村が今度は頭を抱えて叫び出した。侍女は面白がって再びいつもの着物を用意し始めていた。 「もっとでかくしてやろうか?」 「え…」 澄んだ声に幸村が振り返る。すると其処には今の今まで噂をしていた奥州の竜――伊達政宗が居た。 「政宗殿っ?」 「よう、久々に顔だけでも見ていこうと思ったら…なんてマーベラスな格好してやがんだ」 「まーべらす?」 「埋めたくなる胸しやがって」 ずんずんと前に出てきた政宗が、幸村の装束から食み出た胸を眺める。しかし彼の視線に誘導された幸村は、次の瞬間、思い切り平手をぶちかます。平手を食らわせても尚、胸は反動に揺れていった。 結局手合わせには至らず、政宗とは談話するだけで、彼は帰途に向ってしまった。というより、片倉小十郎に引きずられるようにして帰ってしまった。 幸村は慌ただしい一日だったと思いながら横になった。すると胸元が腕に押し潰されて、むにり、と揺れる。 ――真に大きくなっておる。 「はぁ…ただ脂肪が付いたと違うのか?」 ――しかも少し痛いような。 呟きながら自分で自分の胸を持ち上げてみた。自分で乳房を揉んでみても気持ちよくもなんとも無い。それより、所々痛いような気がしてならなかった。 まるで乳飲み子を抱えている女子のような張り具合だとさえ思う。幸村が小首を傾げながら自分の胸を見ていると、す、と障子越しに影が降りた。 「だーんな、起きてる?」 「――…ッ」 がば、と布団を弾き飛ばして起き上がると、静かに障子戸が開いた。待ち望んでいた帰還に幸村は暗闇の中で目を凝らした。 「佐助っ!」 「へへ、只今」 す、とほんの隙間から入り込んできた佐助は、後ろ手になりながら戸を閉めると、幸村に向って両手を広げて見せた。幸村は躊躇うことなく彼の胸元に飛び込んでいく。 「お帰り、佐助ぇ…っん、冷たいっ」 彼の首に、背に腕を廻してしがみ付くと、ひやりと髪から滴り落ちた雫が腕に触れた。思わず声を上げると、ごめん、と佐助は小さく謝ってきた。 「急いで帰って来たけど、あんまり臭かったから着替えてきたんだけど」 ――髪がまだ濡れてたね。 気遣って幸村から身体を離そうとする佐助に、業と身体を寄せた。彼の匂いを嗅ぐのも一ヶ月ぶりになる。佐助の胸元に鼻先を埋めながら、ふう、と呼吸を繰り返す。すると水を浴びてきたと言っていただけあって、新しい水のような香りが鼻先に触れた。 「気にするな。それより…首尾は」 「聞かなくても解るでしょ」 くい、と肩を押される。見上げると直ぐに佐助の顔が迫ってきており、幸村は静かに瞼を落とした。 「……んっ」 ちゅう、と吸い上げるようにして触れてくる唇に、自分から少しずつ唇を開閉させて縋りつく。そうしていると今度は隙間から、するりと舌先が滑り込んでくるから、同じように彼の咥内に舌先を滑らせた。 ――ふに。 いつの間にか背に、肩にあった手が、幸村の胸元に下りて来ていた。単衣の上から胸元を持ち上げるようにして触れられて、びくり、と身体が震える。 同じようにして自分で触れても何も感じないというのに、どうして彼に触れられると身体が震えるのかは解らない。しかし、佐助の手が外側から円を描くように持ち上げてくると、ふるふると身体が震えるのは抗いようの無い事実だ。 「さ…っ、ぁん」 名前を呼ぼうとして高い声が飛び出た。自分の嬌声はまだ慣れる事はなくて、ぐっと下唇を噛み締めてしまう。いつもならそんな幸村の声に反応して、佐助は褥にゆっくりと横たえてくれる。しかしこの日はいつまでたっても、そうならない。 「あれ〜?」 「んん…っ、あっ」 「旦那、胸…ちょっと大きくなった?」 「――…ッ!」 むにむにと正面から胸元を揉みこみながら、佐助が至極真面目な顔つきで言う。幸村も言われたことに反応して瞳を見開く。何故か、そういわれただけなのに、自分がふしだらなような気がしてしまうのはどうしてだろうか。 幸村は、じっと自分の手を見下ろしている佐助から視線を外し、くるりと背を向けてしまった。 「手に余る…ってか、だーんな、背中向けなくても」 背を向けると直ぐに背後から優しい腕が回ってくる。咄嗟に乱れかけていた胸元の合せを握りこみ、両手で引き寄せる。 「佐助はっ」 「うん?」 「斯様に胸の大きい女子は嫌いか?」 小声になりながら問うと、佐助は肩に顎先を乗せながら「うーん」と唸った。そして背後から持ち上げるようにして胸元に手を添えてくる。下胸の辺りを持ち上げるようにして動かされると、たぷん、と胸が波打った。 「そうじゃなくて」 「え?」 「誰に大きくして貰ったの?」 「な…っ」 何を急に言い出すのかと振り返る。しかし佐助は至極真面目だ。真顔のままであわせた袂を思い切り開く。 外気が胸元に触れて背筋がぞくりとした。震えが治まらない内に彼の手が、下から横から胸元を揉み込んで来る。 「やだなぁ、俺様がいないからって、浮気?」 「そんなことっ…ゃっん」 「そういえば独眼竜が来てたんだって?」 つん、とまだ形のはっきりしない乳首の辺りをつまみ上げられる。きゅう、と引っ張られたり、捏ねるようにして指先で弄られる。 「これは確かめないとね」 「え…――っ、ひゃっ」 するりと佐助の片手が腹から下に下りていく。何も履いていないその場所に、ざくりと指先が触れてきて、足を寄せても割れ目を探すようにして手が忍び込んできた。 幸村は足を交差させて佐助の手から逃れようとするも腕は彼のもう片方の腕で拘束されているしで、うまく逃げられない。そうしている内に、男の強い力で膝を割られ、内股に手が滑り込んできた。 「ねぇ、旦那。暫くしてないと、ここも硬くなるんだって」 「あ…っ、やっ…――っ」 「指、どれくらい入るかな?」 ――く。 開かれた足が閉じないように、背後から佐助の足が入り込んでくる。正面から見たらかなり大股を開かされた格好になっている訳だが、耳元に吹き掛けられる吐息交じりの声に、何も考えられなくなっていった。 くちゅ、と濡れた音が耳に触れる。佐助の足によって大きく広げられた足の間に、彼の指先が滑り込んできて、割れ目を辿る。それだけで淫靡な音が響く自分の身体が、淫らなもののように思えて、耳を塞ぎたいほどだった。 「や、だ…ぁ、んっ」 「旦那ぁ、此処すっごく濡れてるんだけど」 「――…ッ」 ぬるぬると柔毛の辺りに指先が絡まっているのが解る。ぞくぞくと背筋に向って旋律が走ると、同じように身体が跳ねる。指先はいつものように胎内に潜り込んできてはいない。それなのに触れられるだけで身体中が痺れていく。 「こんなに感じやすかったっけ?」 「お前…さっきから、疑ってばかり…っ、あぅ」 きゅう、と乳首を持ち上げられる。形をくっきりと見せているそこを、見せ付けるようにして寄せられて、幸村は瞼をぎゅっと閉じた。 「これも可愛いくらいに勃ってるね」 「ぁ、ふ、ん…――っ、く」 背後から胸元をもみあげられて、もどかしくてならない。そうされていると下肢が甘く痺れてきて、足を閉じたくてならないのに、佐助の足に阻まれて閉じることも出来ない。 「どうしようかな…」 「え?」 「旦那のおっぱいでさ、俺様の挟める?」 「な…っ」 肩に顎先を乗せて佐助がとんでもないことを言い出す。振り返ろうとした瞬間、背を支えられてはいるものの、彼は幸村の前に住まいを正した。そして膝立ちになりながら、しずかに前を寛がせ始める。 初めてではないけれども、まじまじと見ることは出来ず、幸村が視線を逸らす。そうしている間に、ぬる、と胸元に熱いものが滑りながら触れてきた。 「ほら、どう?」 「う…――」 「してくれたら、焦らさないであげるけど?」 ぬる、ぬる、と胸の間に触れてくる。幸村は恐る恐る自分の胸を持ち上げ、彼の陰茎を挟みこむようにした。だが直視することはやはりできない。 「こ、こうか?」 「あ、いいね…柔らかい」 「んっ、んっ…あ、熱い…――っ」 ぬるぬると挟み込んだ間を彼の陰茎が何度も往復する。摩擦の熱も加わって、そこだけが熱を帯びていく。濡れた音が響き出すと、幸村は薄目を開けて自分の胸元を見下ろした。そして視線を上に向けてみると、佐助が切なそうに眉根を寄せてこちらを見下ろしている。 ――この顔に弱いんだ、もうっ! 眇めた視線の先には自分が居る。それに今は肩に手をついて、こちらを見下ろしていた。ぽた、と顎先から落ちた汗が、幸村の鎖骨に落ちてきた。すると彼は咽喉を鳴らしてから、動きを止めた。 「動くのも良いけど、そのままお口でしてくれる?」 「え…」 「初めてじゃないでしょ?」 身を屈めて耳元に告げられる。露骨にそんな風に言われるとどうしても羞恥心が先立って、鼓動の高鳴りと共に手が震えてきてしまった。 「そ、そんな風に言う、な…」 「ごめん、ごめん。やっぱり無理しなくてもいいよ。でもずっと俺様、旦那日照りだったからさ。もうカラッカラなんだわ」 「なんだそれは」 「もっと旦那を頂戴よ」 する、と乳房に挟み込んだ陰茎が抜けていく。その代わりに佐助からの口付けが降って来て、直前までの羞恥心が融けてしまった。 ――むに。 「は…ぁんっ、痛い…っ」 きゅ、と正面から乳房をつかまれただけで、急に痛みが走った。なにやら先程よりも張りが変わったように感じられる。 「…胸が?」 「張ってて、痛い…っ」 唇を離しながら告げると、佐助は少しだけ思案した。そして「大丈夫?」と聞かれた。勿論、そんなに激痛と云うわけではない。幸村が頷くと彼は少しだけ微笑んでから、そっと幸村の腰に手を添えた。 「へぇ…そろそろ挿れてあげようか」 「早く…っ」 「後ろからね」 思わず応えてしまうと、くるんと体勢を入れ替えられた。そして腰を高く持ち上げられたかと思うと、先程まで胸元にあった熱いものが押し込められる。 「な…――ぁぁぁああっ」 「く…っ、きっつ…――全然使ってなかったでしょ」 「あ、ひ…っ、…ッ」 ぐ、ぐ、と何度も強く押し込められ、全て彼だけで満たされると、後は強い快楽の海に沈みこむだけだった。 翌朝、目が覚めた幸村は自分の単衣を捲り上げて「あ」と声を上げた。その声でとなりで転がっていた佐助が身体を起こす。 「佐助、誤解は解けたぞ」 「え?」 「どうやら月のものが来ていたらしい。済まぬ、血だらけだ」 「なああああああああああッ」 ぺろりと単衣を捲りあげた先、幸村の下肢は真っ赤に染まってしまっていた。その時の佐助の悲鳴を聞きつけて侍女が駆けつけるまで、そんなに時間は掛からなかった。 朝から湯浴みをさせられて戻ってくると、膝を抱えてこちらを見詰めている佐助を見つける。縁側で湯上りの髪をすいてもらいながら、幸村は侍女に聞いた。 「佐助は何故にあのように凹んでおるのだ?」 「それは幸村様がはしたのうございますからでしょ」 「聞き捨てならんな」 ぷう、と頬を膨らませると、膝を抱えていた筈の佐助が近づいてきて、幸村の前に座った。そして甘えるように胸元に顔を寄せてくる。幸村は自然と彼に両腕を伸ばして抱き締めていた。 「いや、その…はしたなくても良いよ。俺様、旦那に萌え殺される覚悟は出来ている」 「そんな覚悟知らぬ」 「そう?」 「ま、女子には女子の事情があるのだ。努々、疑うでないぞ」 佐助は「はあい」と伸びた返事をしながら、幸村の腰に腕を回してずるずると身体を沈めていった。膝にのる愛しい相手の頭を撫でながら、幸村はこっそりと背後の侍女に視線を投げ、くすくすと笑っていくだけだった。 了 110818up |