ハジメテノヒト



 好きになったのはどちらが最初だったかなんて覚えていないし、判らない。ひとつ年下の彼女が、いつも後を追うようにして付いて来ていたのは知っている。

「でもまさか大学までとはね…最初、女子大に入るって言ってなかったっけ?」

 佐助が上着を脱ぎながら聴くと、彼女――幸村はぐっと押し黙った。それもその筈で、今のこの状況は到底、彼女にしてみたら軽く受け流せるものではない筈だ。
 佐助の通う大学に受かったのだと、合格通知を持って来たのはほんの数分前だ。だけどそれはもっと前に解っていたことで、彼女は卒業式の帰りだった。

「だから…それはもし落ちた時に切なくなってしまうから、内緒に…」
「ふぅん?で、本当に良いの?」
「う…うむ。約束だからな!」

 幸村がこくこくと頷く。彼女のブレザーに手を掛けて、三つボタンを外す。そして肩からするりと落とすと、幸村は小さく唇を噛み締めた。

「……――ッ」
「旦那、あのさ…どうする?」
「え…?」
「俺様が脱がせてもいいけど、恥ずかしい?」

 佐助がベッドの下に膝を付いたままで聞くと、幸村はかあと頬を赤らめた。そして肩から滑り落ちたブレザーをひっぱり、ベッドの下に落とす。

「じ、自分で脱ぐものなのか?」
「あ〜…そうね、じゃあ、俺様が脱がしたげる。その方が楽しいし」
「たの…――ッ、破廉恥なっ」

 きゃあ、と両手で顔を覆ってしまう幸村に苦笑しか浮かばない。
 約束――それは、卒業するまでは清い関係で、というものだった。最初はそんなのありなのか、と愕然としてしまったが、相手が幸村となれば仕方ない。

 ――だって可愛いんだよ。穢したくないんだよッ!

 自分でそう思ってしまうくらいには、彼女を神聖視してしまっている。無邪気な顔とか、本当に穢れをしらない彼女に、護ってやりたいという気持がふつふつと湧いてくる。
 だが同時に、佐助も所詮は健全な男な訳で、本能の赴くままに彼女を組み敷きたいと思ってしまうのも事実だった。
 付き合い始めたのは佐助が高校に入った年だった。その時は、佐助の入学式で「入学祝だ」と幸村が言ってきたのを今でも覚えている。

 ――幸村には、何もあげるものが無い故、私をやろう!

 顔を真っ赤にして、棒読みで言ってきたセーラー服の彼女は、その時の精一杯の気持で告白してくれた。

「幸ちゃん…――お願いだから殴らないでね」
「ぜ、善処するッ」

 シャツ姿の幸村の華奢な肩を間近で抱き締める。ベッド下に膝を付いている佐助からすると、丁度幸村の首元に鼻先が触れるようになり、幸村はそろそろと手を伸ばして佐助の頭をなでてきた。

「多分さ、これからするのは幸ちゃんには辛いかもしれないことになるんだよね」
「ぅ……それは、知っている」

 こく、と頷く幸村の首もとのリボンに手を掛ける。ワンタッチで留まるつくりになっているそれを、人差し指を引っ掛けて外すと、ぷち、と軽快な音が響いた。

「初めてだもん、痛いと思うし…恥ずかしいと思うんだけど」
「佐助…」

 一向に顔を上げない佐助の頬に、幸村の細い指が絡まる。それに気付いて顔を起こしてから、佐助はそっと顔を寄せていった。

「俺様に任せて、ね?」











 キスをしている間に、彼女のブラウスのボタンを一つ一つ指先で解いていく。制服とは不思議なもので、どうしてこんなにスタイルを包み隠してしまうのかとさえ感じるものだ。

 ――もっと、ぺたんこだと思ってたのに。

 ゆっくりと触れた胸元は佐助の掌にしっかりと収まるサイズだ。制服姿の時にはもっと華奢な印象が強く、胸元に目線が行くことなど殆どなかった。
 それなのに、今の彼女の胸元にはしっかりとした膨らみがあり、下着の上から掌を持ち上げるように動かすと、ぴくん、と幸村が身体を震わせた。

「さ、すけ…あの、あまり、揉まないでくれぬか」
「なんで?」
「なんか変な感じする…ッ」

 やわやわと掌で揉んでいると幸村が困ったように言ってきた。だが彼女のそんな仕種にも手を止める気にもならず、佐助は鼻先を胸の谷間に向けて挟み込んだ。

「ふあ…っ、あっ」

 ふう、と息を吹きかけるだけで、肌が粟立っていく。そして同時に、ごそごそと彼女の足が動き出していた。

 ――ぺろ。

「ん……――ッ」

 胸の谷間を舐め上げると、佐助の腕に掴まっている手に力が篭る。小さく鼻から息を吐き出す姿が、まるで小動物のようだった。だが、ぎゅっと瞑られている瞳から、じわじわと涙が滲んで来ていることに気付き、佐助は少しだけ顔を離した。

「さすけ…?」
「んー……」

 小首を傾げながら、佐助は「よ」と声をかけて幸村のブラを、ぐっと上に引き上げた。

「あ…っ!」
「うっわ…ちょ、可愛い」
「や、やぁ…っ」

 上に引き上げられたブラが、胸元をぎゅっと上に引き上げたままになっている。二つの山に向って顔を近づけようとすると、幸村は腕をばたばたと動かして阻もうとする。

「ごめん、ね?」
「や、やだ…さすけ…っ、恥ずかしいッ」
「そう言っても止めないから」

 ぎゅうぎゅうと押し戻されるのを押して、強く身体を沈みこませる。そしてそのまま、二つの頂に向って口を寄せて引き入れた。

 ――ちゅう。

「――っ、はぁっ……ん」

 くちゅくちゅと舌先で二つの頂を転がしていくと、徐々に先が固さを持っていく。しがみ付いて来ている幸村の手がぶるぶると震えては、何度も佐助のシャツを強く握りこんで来ていた。

 ――する…。

 空いた片方の手で、スカートの中に手を差し入れる。すると佐助の手に反応して幸村が足を閉じようとし始めた。すぐに二の足の間に片足を差し入れて開かせながら、するすると手を登らせていく。

「やっ、佐助…佐助、やだッ!」
「うん、でも…止めないって、言ったでしょ?」

 ――任せて、って。

 優しく言いながらも先ほどから身体が熱い――佐助は手がじんわりと汗ばんでくるのを感じながら、指先を下着の横から差し入れた。

「んっ!」
「って、あ〜…旦那、結構感じやすい?」
「し、知らぬ…っ」
「だって凄いよ。もうぬるぬるになってる」
「うぅ〜」

 指先の腹で何度も割れ目を往復させながら、下着を取り払う。すると幸村が真っ赤になりながら睨みつけて来ていた。

 ――ぽかん。

「あた…っ、ちょ、何?」
「何だか無性に腹が立ったっ!」
「な、何で…?」
「だって、わ、私は…佐助が初めてなのにっ!そんな、ぬ、ぬ、濡れているとか、聞かれても…っ、ただ恥ずかしいだけなのにっ」

 えぐ、と幸村の咽喉がしゃくり上げ始める。さらに目元には涙が滲み出してきており、只管に佐助を拳で叩き始めてくる。

 ――やべ、苛めすぎた。

 さあ、と血の気が下がる思いもあるものの、そんな彼女を可愛いとさえ感じてしまう。佐助は覆いかぶさっていた身体を起こし、膝立ちになった。

「佐助…?」

 ――ばさっ。

 幸村の声掛けとほぼ同時に上着を脱ぎ払う。すると幸村は口を真一文字に引き結んだ。

「旦那、手、貸して」
「え…」
「ほら」

 幸村の細い手首を掴んで、自分の方へと引き寄せる。掌にキスをしてから、そのまま手を導いて自分の肌に這わせた。

「ささささささす…っ」
「解る?」
「――…?」
「俺さ、旦那に触っているだけでこんなに興奮してんの」
「――ッ!」

 きゅ、と幸村の咽喉が小さく鳴った。それに気付きながらも見せ付けるようにして佐助は手を誘導する。

「咽喉も」

 手首を自分の咽喉元に触れさせる。幸村の細い指が咽喉仏に触れて、少しだけ息苦しいような気がした。

「胸も」

 どきどきと先ほどから早鐘を打っている鼓動に、彼女が気付くといい。

「っと、この先も、触る?」
「え…?あ、いや…っ!いいッ!」
「残念。いつか触れるようになってね」

 そのまま幸村の手を自分の下肢に向けようとして伺うと、幸村は掌を握りこんでしまった。握りこぶしの骨に、ちゅ、と唇をつけてから、再び彼女の上に覆いかぶさる。

「すこし…汗ばんでるな」
「緊張してるからね」

 触れ合う肌と肌に、幸村が息をつく。彼女の身体をこれから拓くのが待ち遠しいような気もするが、そうして触れ合っているだけでも心地よい。
 幸村は抱えるようにして佐助の頭をなでると、自分から額にキスをしてきた。

「旦那…?」
「つづき…」
「え…?」
「続き、しよう。な?」
「――…ッ」

 幸村が羞恥で涙目になりながら耳元に囁く。佐助は一度瞳を見開いてから、くすくすと咽喉の奥で笑い、そしてゆったりと彼女の下肢へと手を伸ばしていった。











 朝の青い光の中で、むき出しの肩に口付けを何度降らせたか判らない。ほんのりと幸村の白い肌に痕が残っているのを確認しながら、佐助は幸村の身体を胸元に引き寄せた。

 ――可愛かった…本気で可愛かった。

 思い起こすと鼻血でも出てきそうだった。流石に未通娘というだけあって、突き入れた際には出血があった――それに慌てそうになったのはむしろ佐助のほうだった。
 柔らかい感触に何度も持って行かれそうになった。それを思い起こすと、むしろ初めてだったのは自分のほうだったのではないかとさえ思ってしまう。

「旦那ぁ…起きて?」

 小さく耳元に言うと、幸村の瞼がぴくりと動いた。涙に腫れた目元に唇を落として、そして腕に閉じ込める。

「ん…」
「おきてくれたら、今の俺様のこの幸せな気持ちを語ってあげる」
「――…」

 すうすうと寝息を立てる幸村に囁くが、中々起きないのは承知の上だ。佐助は目が覚めた瞬間に、幸村に何を言おうかを考えながら、そっと幸村の温もりに瞼を落としていった。









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