lover's dog





 ――真田の狗

 そう呼ばれても仕方が無い。

 ――主を持てば忍は狗だし。

 この首に首輪をつけて、そして連れ回せるのは、主と決めたあの人だけだ。

「はは…、手前ぇ…どんな理由で此処に居やがんだ?」
「俺の独断に決まってるでしょ」

 夜の寝室に、ふらり、と天井から舞い降りて直に彼の咽喉元を締め付けた。
 声を出すのもきついだろうに、この隻眼の男は不敵に笑ってみせる。

「だろうな…真田が許すはずねぇよな?」

 ぎり、と鉤爪が彼の肌に赤い線を描く。
 政宗の上に乗り上げて、その四肢の自由を奪う。そして彼に乗り上げながら、にこり、と微笑んで見せた――しかし口布で顔の殆どを隠しているから、目元でした表情を表せないだけでもある。

「うん…――俺さ、あんた嫌いなんだわ」
「奇遇だな、俺もだ」

 は、と咳き込みながらも政宗は余裕有り気に云って見せた。ふ、と手を咽喉から離すと、彼はごほごほと咳き込んだ。咳の音を聞きつけて、彼の側近が来ないとも限らない。
 手を離して、そして咳き込む彼の口に掌を当てて、その耳朶に低く告げた。

「だから、痛めつけたいの」

 ――どかッ。

 腹に政宗の蹴りが入る。思わず飛びのいてしまうと、政宗は身体を起こして咽喉元を摩りながら吐き捨てた。

「――この狗が」
「何とでも言えばいいよ。でもさ、あの人、俺のなの。だから…勝手に奪おうとしたあんたが悪い」

 佐助は口布を外すと、ゆらりと立ち上がった。政宗は静かに佐助を見上げていた。

「――言い訳、聞く耳はねぇのかよ」
「無いね」

 ふ、と笑うと佐助は政宗に近づき、髪を掴むと、その咽喉元に噛み付いた。

「噛み千切ってやりたい」
「手前ぇにはできねぇよ」
「――…ッ」
「だから、俺を犯すんだろ?」

 ――そのつもりなんだろ?

 そう聴いてくる目の前の男が憎らしかった。彼が――唯一の主が、どんな気も迷いか知らないが、彼を抱いた。それが自分の胸をどれ程抉ったか――怒りを、悔しさを、嘆きを、ぶつける方法をしらない。

 ――命令がなければ、殺せない。

 この首につなげられた首輪のせいで、彼の命以外は訊けない。
 だから、彼の――彼に通じるおこぼれを貰うくらいは許して欲しい。

「黙っててね、独眼竜」
「さぁな…」

 そういいながらも、政宗の伸ばされた手は優しく佐助に触れてきた。











2009.07.11.Sat