Cherry coke days 文化祭が終ると嫌がおうにも年末だとかクリスマスだとかの話が出てくる。それはずっと変わらないことだが、今年ばかりはそこに『受験』というものが入ってきて身動きが取れなくなるような気がしていた。 そもそも三年になった時から既に、何かに拘束されているかのような息苦しさや、受験生と云う称号を背負っているようなものだ。 だが余程高望みしなければ、それなりに物事をこなす自信はあった。 ――でも、元就は予定を立ててしっかりと突き進む。 今すぐにでも愛だの恋だのと耳元で忙しなく言いまくるだけの余裕くらいは持ち合わせている。でも相手は違う。 ――追い詰めたい訳じゃ…いや、もう追い詰めてもいいか。 帰り道で自分よりも低い位置にある頭を見下ろして判断する。元親は赤信号に立ち止まる元就に言った。 「元就、飯、食っていかねぇ?」 「よかろう」 「何処がいい?マックでも、ミスドでも、何処でも良いぜ」 横断歩道を渡りながら、駅前のラインナップを思い出す。ファストフード店が多いのは仕方ない。しかし元就の反応は違った。 「貴様の作ったお好み焼きがよい」 「は?」 「今度は広島風にしてもらいたいところだ」 信号を見詰めたままの元就の表情は、上からは解らない。上から解るのは長い目尻にかけての睫毛と、ちょこんと飛び出た鼻先くらいだ。 元親が顔を覗き込もうと小首を傾げるのと、元就が青信号に歩を進めたのが同時だった。慌てて元親は元就の後を大股になりながら追いつき、隣に並ぶと背を屈めながら話した。 「ちょ…待て。昼も散々食っただろう?」 「食べ足りぬ」 ずんずんと先を歩きながら元就が言う。言葉に澱みは無い。元就は一度言ったら中々覆さないものだ。それを知っているから反論するのも面倒で、はあ、と溜息を付くと元親は背を伸ばした。 「…外で食うのは無しだな」 「いや、我にとっては外よ」 「あ?」 歩く速度が急に緩くなる。元就が元親の速度にあわせて、隣に近づいてくる。そして見上げるように首を動かすと、ふ、と口元を笑ませた。 「後で貴様の家に赴こう」 「――…ッ、珍しいじゃねぇか」 お向かいさん、という位置には居るものの、大体が元親が元就の元に遊びに飛び出していた。殆ど家に居ないとはいえ、元親の家には一応兄弟も居たりする。その鬱陶しさから、元就の元に出向くことが習慣化してしまっていた。 ――我にとっては『外』よ。 そう言った元就の言葉を何度も反芻する。外食というよりも、元親と一緒に食べることに意義を見出してくれているのだとしたら、嬉しいかもしれない。 にやにやしながら元親が見下ろしていると、少しだけ照れたように唇を突き出して元就はぶっきらぼうに言った。 「たまには我とて足を運ぶのだ」 「じゃあ、一緒に買い物していこうぜ」 ――ぐい。 元親は元就の細い肩に腕を回した。よろけて胸元に寄りかかる元就を、そのまま両腕に閉じ込めたくなりながらも、肩に置いた手に力を篭める。彼は抵抗するでもなく、ふん、と軽く鼻を鳴らすと、序でに揚げたての鳥の唐揚げも食べたい、と付け加えていった。元親は頷くことばかりを繰り返しながら、胸元が少しだけくすぐったいような気分になっていった。 → 80 110310/110505 up |