drops 散々湯に浸かって、気付けば指先までふやけるほどになっていた。脱衣所に先に向っていった幸村が、支度を終えてその場に蹲っているのを眼にした時には、やりすぎた、と青くなった。 「旦那、ほら歩ける?」 「うぅ…湯中りなど、鍛練が足りぬのであろうか…」 「あれだけ入ってれば湯中りもするって」 肩に腕を回して、横に並んで歩く間に幸村の顔色は蒼白から赤みを戻していく。そのことにほっとしつつ、部屋に向う。部屋に入ると既に布団が敷かれており、その上に幸村を横たえてから覗き込む。 「何か欲しい物ない?飲み物買ってくるけど」 「…――こおり」 「え…?」 幸村は目元を赤くして、暑いから氷が食べたい、と言って来た。確か氷は階下にあった筈だ。佐助は掌を幸村の額に当ててから、そっとその上に唇を落とす。自分の手の甲にキスを落としているのだが、幸村は気付いたようで、瞬きを繰り返した。 「大人しくしててね。戻ってきたら、ちゃんとキスしてあげるから」 「な…ッ、は、早く行ってしまえッ」 軽口を叩きながら幸村が身を起しかけて、ばたり、と布団の上に戻っていく。佐助はそれを確認してから、財布を持って部屋を出た。 ――回復早いのは解ってるんだけど、ちょっとやりすぎたな。 自販機の前でスポーツドリンクを買いながら佐助はぼんやりとそんな風に思う。場所はそれでなくても風呂場だ――蒸気や湯が、通常よりも体力を奪うというのに、気付けば四回近くしている。 ――可愛いのがいけない。 がりがりとまだ濡れたままの髪を掻き揚げる。ほんの少し気を赦すと、先程までの幸村の痴態を思い出して、下肢が疼いてくる気がした。 ――いけね。 ぶんぶん、と首を振って、佐助は側にあったアイスボックスから、氷を取り出すと、その内のひとつを自分の口に入れてから部屋に戻った。 からから、と部屋の戸を開けると、幸村は仰向けに寝ている。ふう、と吐き出す息からは苦しさはなさそうだった。 「旦那、氷持って来たよ」 「ん」 幸村は瞼を閉じたまま、ぱく、と口を開いてみせる。それを見下ろしながら、懐に抱き込んでいたスポーツドリンクを枕元において、くすくすと笑った。なんて可愛いおねだりだ、と付け加えていく。 「口に入れろって事?」 早くしろとばかりに幸村は大きめに口を開く。其処に、とん、と氷の塊をいれると、幸村は眉根を寄せた。 「――…んっ」 ぺ、と直ぐに枕元に氷を吐き出す。 自分でほしがったのに、と佐助はそれを拾い上げて文句を言った。 「ちょ、吐き出さないでよね」 「大きすぎる…小さいの、くれ」 「仕方ないなぁ」 手にした氷を、がり、と歯で噛み砕く。半分砕けた氷を飲み込んでから、横に向けている幸村の頬に手を宛がって囁いた。 「旦那、口開けて」 小さく、ん、と口を開いた幸村の口に、半分に砕いた氷を舌先で押し込みながら、彼が吐き出さないように、唇を重ねる。 ――ちゅる… 滑り出す氷を、舌先で押し込めて、熱くなっている幸村の舌を弄る。彼の舌の上に氷を置くと、そのまま歯列をなぞっていく。すると、びく、と幸村の身体が跳ねた。 ――熱いなぁ… 氷で冷たく冷えていたせいもあるのだろう。佐助の舌先よりも幸村の舌はかなり熱く感じられた。だが温度が違うことが余計に互いの舌先を意識させてくれる。 「ふ…ぁ、あ、ん…」 「すっげ、舌熱い」 少しだけ唇を離すと、幸村は名残惜しそうに舌先を突き出してきた。驚いて見下ろしていると、幸村は潤んだ瞳で見上げてくる。 「ん…――もっと」 「この人はさぁ…はいはい」 佐助は苦笑しながら再び、がり、と氷を噛み砕いてから、幸村に口付けていく。互いの唇が重なり、舌先が絡み合う――くちゅくちゅと濡れた音が響いて、口蓋を舌先でちろちろと擽ると、幸村は腕を伸ばして引き寄せてきた。 「ふ…っ、ん…」 「ここ、好き?」 耳朶に囁くと、こくり、と頷く。キスだけでかなり蕩けそうな表情になっている幸村に、下肢がどんどん疼いてくるが、先程までの無体を思うと我慢するしかない。 「佐助…」 上体を折りたたみながら――首には幸村の腕が絡まっている――手を伸ばして、氷に再び手を伸ばすと、途端に幸村が頭を持ち上げた。 「――――…?」 幸村はそのまま佐助の首筋に鼻先を押し付ける。そして、すんすん、と鼻を動かしてくる。生暖かい彼の呼気が触れ、ぞくり、と背筋に戦慄が走った。 「な、何?」 「ん…――うん」 くんくん、としきりに佐助の首筋の匂いを嗅ぎ、そのまま、ぱく、と耳朶に噛み付く。幸村の仕種があまりに擽ったくて身を捩りたくなってくる。佐助は苦笑したまま、氷を器に戻して、彼の背に手を当てて抱きとめた。 「犬、みたいだよ、旦那」 ――くすぐったい。 困ったように告げると、幸村はぬるりと佐助の耳孔に舌先を入れてくる。 「ん…ッ、旦那…――っ?」 「同じにおいがする」 「――――ッ!」 耳朶に囁きかけられた言葉に、ぐっと手に力を入れて引き離すと、幸村は半ば佐助にぶら下ったままの格好で見上げてきた。 「さすけぇ…」 ごそ、と足元を動かす――衣擦れの音に気付いて、佐助は幸村の鼻先に、ちゅう、と唇を押し付けながら、徐に彼の袂を割った。まだ熱い内股に手を差し込んで、するりと撫で上げる――肌はしっとりとしていて、手に心地よいばかりだ。 「さっきしたばかりなのに」 「んッ」 指を開いて触れていくと、ぶる、と幸村が肩を揺らす。仰向けになっている幸村の横に座って、片腕で彼の背を支え、もう片方の手で袂を割る。撫で触る足は弾力を持っていながら、吸い付いてくるようだ。 「旦那ってば何発情してんだよ」 「それは…お、まえ、が」 ぶるぶると身を震わせる幸村の目元が涙で潤む。佐助はそれを見下ろしながら手を、するりと上に向けて――足の付け根に手を這わせてから、驚いて瞳を見開いた。 「あれ?」 「あ」 手に直に触れてくるのは、彼の素肌の感触だ――あって然るべき下着に指先が触れもしなかった。 ――嘘だろう? ごくん、と咽喉が鳴ってしまう。いつの間にか脱いでいたのか、それとも脱衣所ですでに履いていなかったのか――いずれにせよ、どうしたって自分を誘っているようにしか取れない。 ――ぺろ。 佐助は幸村に気付かれないように、渇いた唇を舐めた。そしてゆっくりと背を支えていた手を離してから、落ちてきていた自分の髪を撫で上げた。 「旦那ぁ、やる気満々だったの」 「うぅ…」 ぶわ、と顔だけでなく首元まで赤くして幸村が視線を反らす。それだけで図星だったのだろうと窺えた。佐助は足の窪みに指先を添えて、肝心な場所には触れずに、窪みの中だけを何度も指で擦る。すると幸村はもどかしそうに膝を寄せてきた。 「こんな可愛いことされたらさ、もう今日は寝かせないよ」 幸村が見上げてくるのを見計らって、髪を掻き上げた。すると幸村は、ひゅ、と息を飲んで凝視してくる。たぶん今の自分は飢えた獣みたいな目をしているのだろうと思う。佐助は身体を折り曲げて、唇に触れる直前で止まると、掠れた声で囁いた。 「いいよね?」 「う…」 小さく呻くような声を出す幸村に、今度はゆっくりと笑いかける。 「覚悟してね、旦那」 「覚悟など…」 「焚き付けたのは旦那なんだから」 言い様に、幸村の帯を引き払った。いきなり脱がされるのは恥ずかしいのか、幸村は膝を縮めていく――だがそれを赦さないように、片腕でぐっと膝を割り開いた。 「かーわいい…――ね、見える?旦那の此処さ、もう勃ちはじめてる」 「え…あ、や…――ッ」 幸村の首の下に腕を差し入れて肩を抱くと、横から佐助は頬、鼻先と口付けた。そして緩く勃ち上がりかけていた彼の陰茎を、ぎゅ、と握ってから裏筋を指でなぞる。 びくびくと跳ねる身体を見下ろしながら、陰茎に絡めていた手を腹に滑らせ、そのまま上に持っていく。 「ほら、ここも…さっきはあんまり触って上げられなかったけど、此処好きだよね?」 「は…っ、あ…っぅ」 幸村の胸元に手を伸ばして、胸元に小さく飾りのようにある乳首に触れる。指の腹で押し潰すようにして捏ねていると、徐々に形が顕になってくる。 きゅ、と摘み上げれば、ぷく、と今度は其処が勃ちあがった。幸村の胸元は薄く色付いているだけだ――だが形が出来上がると、少しだけ色合いが変わる。 「食べちゃいたいなぁ…」 「え…――ぁふっ」 ぱく、と片方の乳首を口に含む。唇で挟み込んで、ぎゅう、と力を篭めた。そのまま舌先で、ぢゅく、と濡れた音を立てて吸い上げる。 「や、いやだ…ッ、佐助ぇ…」 ぎゅう、とシーツを掴みこんで身体を硬くする幸村を横目に、片方の手ではもうひとつの乳首を嬲りだす。捏ねたり、押し潰したり、指の腹でするすると撫でたりを繰り返す。 「や、ぃ…――や、ぁ…――ッ」 いつもよりも半音高い声が、幸村の口から漏れてくる。はふはふ、と合間に呼吸が重なり、耳から佐助を煽っていく。 ――ぎゅう。 口に含んだ彼の乳首を歯で挟んで噛み、指で捏ねていた方を上に向って、ぎゅう、と引っ張った。 「ん、ん――ッ、い、ぃ、ぃたい…ッ」 「嘘ばっかり。感じてるくせに」 口を離しながら、両手で乳首を挟みこんで、ぎゅうぎゅう、と強くつね上げる。すると幸村の眦から涙が零れた。 「や、ぅ…――いた…」 ――ぴんっ。 勢いのままにそのまま手を離すと、びく、と幸村の身体が揺れる。見下ろすと彼の乳首は赤く熟れていた。 「じゃあ、此れは」 「ひぅ…ッ」 ふ、と息を吐きながら、今度は同じ場所に柔らかく舌先をねっとりと押し付ける。すると彼は腕を伸ばして佐助を引き寄せてきた。 「痛みと、快楽って…ほんと、似てるよねぇ」 「あ…や、だ…ッ。佐助、もう…」 「え?」 ごそ、と彼の下肢が動いているのに気付いて視線を向ける。すると彼の陰茎は既にふるふると勃ちあがって、じわりと透明な液を垂らしていた。 ――ホントに、今日の旦那てばどうしたのかね? 淫乱にも程があるだろうと思うが、全てが自分に向けられていると思うと悪い気はしない。それに先程から、ずくずくと下肢が疼いているのは自分も変わらないのだ。 佐助は幸村の唇に噛み付くようにして唇を合わせると、幸村の片足を広げて自分の身体を滑らせた。そして枕に幸村をおろすと、ふ、と身体を引き剥がす。 「は…さ、すけ?」 「観て、旦那」 「え…?」 幸村の前でゆっくりと肩から浴衣を滑り落とす。そのまま帯を払い、幸村の手を掴んで指先に口付けると、佐助は自分の胸元に彼の手を触れさせながら腰を浮かせた。 「ほら、俺の鼓動…解る?もうドキドキ言い過ぎて」 「あ…っ、そ、それは俺だって…」 幸村が掌に感じる佐助の鼓動に、こくん、と咽喉を動かす。それを見下ろしながら、佐助は下着を脱ぎ払うと、ぺた、と彼の陰茎に自身のものを付けた。 「――――っ!」 「これ、挿れていい?」 「っ…――…ッ」 「明日、立てなかったら俺様が抱っこしてあげるからさ」 「抱っこは厭だ。だが…」 「うん?」 其処まで言うと幸村が口篭った。何度もぱくぱくと口を開きながら、最初の言葉を告げると黙り込む。 「い…ぃ、い…っ、い…」 「その先、言って見せて?」 ――くちゅ。 佐助は自身の陰茎を――先から零れる先走りを知らせるように擦り付けると、幸村は眉を下げながら――挿れてくれ、と小さく告げてきた。告げてきた彼の額に、小さなキスを落としてから、佐助は彼の膝を強く割っていく。 「了解」 「――っふ…――アッ」 勢い良く彼の中に挿入りこみ、内部を抉り出す。穿ち続ける合間に、ぽた、ぽた、と小さな汗の雫が、佐助の顎先から幸村の肌に染みていった。 翌日、まるっきり立てないという訳ではなく、よろよろとしながらも動いている幸村に、佐助はかなり脱帽気味だった。 今度は来るな、と言われながら、彼は早朝の大浴場に向っていく。心配で付いていったが、彼は頑なに「入るな」と云うので佐助は大人しく脱衣所で待っていた。 ――あれ、自分で処理してるんだろね。部屋のお風呂ですりゃいいのに。 ぼんやりとそんな事を考えていると、がら、と戸を開けて幸村が戻ってくる。頬を染めて――彼の肌の上には湯の雫が玉になっていた――肌を染めたままの幸村は、すたすたと戻ってくると支度を始めてしまう。 「佐助…」 「うん?」 「お前も入って来い。ただし急いでな!」 「え…なんで?」 「腹が減った」 ぶう、と頬を膨らませる幸村に、どうしても苦笑しか出てこない。はいはい、と承諾しながら、買っておいたスポーツドリンクを手渡してから、佐助もまた浴衣を脱ぎ出すと、ぼぼっ、と幸村は顔を赤らめた。 「――――?」 彼の変化に首を傾げていると、がらがらと戸を開けて宿泊客が入ってくる。初老の男が二人入ってきたが、それを眼で追っているうちに、幸村がタオルを投げてきた。 「ぶは、何?旦那…――ッ」 「首に掛けていけッ!」 「え?」 「いいか、取るなよ?」 幸村は真っ赤になりながら背を向けていく。変なものだと思いながら佐助は首にタオルを巻いたままで洗い場に向った。 大浴場は湯気をほわほわと蔓延させている。此処でしたんだなぁ、と思いながらも、ふと鏡に目がいった。 「あ…あ〜あ、なるほどね」 肩に、首に、観れば蚯蚓腫れが出来ている。どう考えても幸村の爪がつけた痕だ。しかも鎖骨には歯型まである。 「俺様、満身創痍だねぇ…」 ぴちゃん、と天井から冷たい雫が背に落ちてきた。それにびくりと身体を震わせながら、佐助は咽喉の奥で笑うのを止められなくなっていった。 「たまには、こういう…普段と違うのもいいかも」 呟きは湯の音に掻き消されていく。 佐助は外で空腹のまま待っている幸村を思いながら、急いで身体を清めていった。 了 100526 up 六花様の299999hitリクエスト 現代でお風呂えっちor戦国で温泉えっちとのことでしたが、結局は現代で温泉に変更させて頂きました。大変お待たせいたしましたが、受け取ってくださいませ! |