ファイティング・バレンタイン





「馳走になり申した」
「旦那、旦那、美味しかった?」

 ぺこん、と手を合わせる幸村の前に、チョコでべとべとのままの佐助が手を伸ばし――汚れていることに気付いて引っ込めた。だがそんな佐助の苦労も物ともせずに、幸村は佐助を手に取ると、側にあったお絞りで、ぐいぐい、と拭っていく。

「うむ、美味であったぞ」
「良かったぁ」

 ほかほかのお絞りに拭われつつ、小さな手でこしこしと顔を拭きながら佐助が頬をふくふくと嬉しそうに膨らませる。それを眺めながら、幸村も釣られるようにして微笑んだ。

「お返し…何がよいかのぅ。固形肥料、液体肥料、堆肥…」
「そんなのいらねぇッ!」

 幸村と佐助の横では、フォークにプチシューを突き刺したままで悩む元就がいる。あれこれと悩みつつ、項目を挙げるたびに元親に却下されてしまっている。
 元親は大きなフォークに乗って、テーブルの上を縦横無尽に滑り込んで遊んでいた。

「では何が欲しい?」

 ――シャッ!

 ぱく、とシューを口に運んで元就が聞くと、滑り込むのを目の前で止めて、こほ、と元親は咳払いをした。そして胸を張って元就に告げる。

「愛、だな」
「愛ユエニー」

 即、元就が力なく応え、ぷす、と目の前のシュークリームにフォークを突き刺した。元親はその場で、足をだんだんと踏み鳴らして憤慨していく。

「棒読みすんなッ。心が篭ってねぇよ!」
「ではこうか?愛、ミナギッテマース!」
「もっと違うわッ!」

 ぶん、と元親がフォークを振り回す。すると今度は教育的指導だとばかりに、元就がそのフォークを取り上げ「こらッ」と怒り出していた。

「政宗様」

 もくもく、と口を動かしながら――小十郎もプチシューの相伴に預かりながら――小十郎は隣の政宗に呼びかけた。すると政宗は飲んでいた紅茶から口を離す。

「ほわいとでーには、チョコレートのように決まったお返しというものがあるのでしょうか」
「俺、あんまりよく知らねぇよ」

 くふふ、と頬杖をつきながら政宗が手を伸ばす。そして小十郎の顎先についていたチョコレートを指先ですくった。

「政宗様のお好きなものと想いますと、どうしても悩んでしまうのですが」
「umm〜」

 口をへの字に曲げながら、政宗もまた眉を寄せる。すると、ぽん、と手を打つ音と共に元就の軽快な声が響いた。元就が軽快に応えること自体が珍しく、他の四人は一瞬我が耳を疑って振り向いた。

「そうだ、飴ではどうかの?」
「ちゃちぃ」
「マシュマロ」
「ギモーヴがいい」
「…贅沢よな」
「けっ」

 提案する先から元親が却下する。そして更に元親はその場に横になると、ぽてん、と片肘をついてしまう。涅槃のポーズといえばそうだが――三頭身の姿ではどうみてもアザラシだ。ぶふふ、と元就が噴出すと、元親はころんと背中を向けた。

「まったく我の専門外だと…あ」
「…――っ」

 元就と幸村の視線が、じっと一角に注がれていく。視線の先には政宗は居た。政宗はぶんぶんと手を振って拒否をする。

「俺は手伝わねぇからな!」
「政宗殿ぅ」

 幸村が縋るように呼びかける。だが政宗は、ふい、と顔を背けた。

「俺、今回頑張ったからッ!次はお返しの方がいいッ」
「政宗よ…」

 背けた顔の方には、今度は元就だ。ぎゃあ、と両耳を押さえて政宗は天井を向いた。

「だだだ駄目だぜ、そんな目しても!自分らで考えろ」
「私もですか、政宗様」

 すると背後にいた小十郎が、上から見下ろしてくる。そっと政宗の手首に手を添えて、耳から離すと、困ったように告げていく。だが政宗は小十郎にはまじめに応えた。

「AH〜?お前は其処で咲いてればいい」
「え…?」
「俺の側で、ずっと咲いてればいいんだよッ!」

 ぶん、と手を払って政宗が正面を向く。

「You understand?」

 オマケのように付け加えながら、政宗の耳が赤くなる。それを見下ろして、小十郎はくすくすと咽喉を震わせて笑っていた。だが元就と幸村は、そんな二人を頬杖を付きながら生ぬるく見守っていた。

「あー、お熱いことで」
「全くでござる」

 にやにやとする二人を目の前にして、今度は政宗は思い切り、べえ、と舌先を見せた。来月のお返し――それを考えながら、わいわいと賑やかに夜を越えていった。







 了









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