Heart dance





 小十郎が日課の畑仕事をしている間、ふらりと訪れた政宗は毬を蹴って遊び出した。
 ぽん、ぽん、と上手に跳ねる様子に観ていた子ども達が瞳を輝かせる。気付くと政宗は子ども達と一緒になって遊んでいた。

 ――ガンッ。

「Shit!」

 小十郎が鍬を引き上げた瞬間、鈍い音が響いた。顎先に滴る汗を首にかけた手ぬぐいで拭って、首を廻らせると政宗が毬の行方を――腰に手を宛がったまま見送っていた。

「どうかされましたか、政宗様」
「小十郎…、その…毬をな」

 ――思い切り蹴り上げちまって。

 既に毬の姿は見えない。しょんぼりと肩を落とす姿からは、奥州筆頭というよりも、年頃の青年の姿でしかない。小十郎は鼻先で笑うと、残念そうに見上げてきている子ども達の方へと政宗の背を押した。
 政宗は素直に、子ども達に「今日は仕舞いだ」と告げていく。そうすると、蜘蛛の子を散らしたように子ども達は離れていく。

「――お遊びが過ぎましたな」
「俺としたことが、白熱しちまって」

 隣に立ちながら政宗を見下ろす――上から見下ろすと、睫毛が長いことが解る。すう、と通った鼻梁に、うっすらと汗を掻いている姿が、やたらと色を感じさせた。

 ――おっと、危ない、危ない。

 小十郎は其処まで考えてから、すい、と視線を泳がせた。側にいるこの自分が彼に邪な思いを抱いているなど、言語道断だ。絶対に悟られてはならない。だが、無防備に晒してくる政宗から、自身を制御させるのは至難の業だ。

 ――惚れてる、からなぁ…。

 何の因果で、と思わざるを得ないが、側にいる内に彼に向ける自分の視線に変化が起きていた。それを自覚して既に数年――未だに彼には伝えていない、いや伝えられるはずなんてない。
 小十郎は思いを振り切るように、首を動かしてから、政宗に声をかけた。

「では、毬を捜してきましょうか」
「そうだな…俺、あっち側探す」
「では私はこちら側を」

 しょぼんと肩を落としながら、政宗が指差す方向へと踵を返していく。その背を見送ってから、小十郎は反対方向へと歩を進めていった。











 がさがさ、と草むらを掻き分けて、下を見下ろして探していく。毬は青い糸に彩られていた筈だ――小十郎は辺りを見回して、どんどん奥へと進んでいった。

 ――お、あった!

 ふと草むらを掻き分けた場所に、ころり、と転がっている毬を見つける。それを手にとってしゃがみ込むと、小十郎は背後に向かって声を張り上げた。

「ありましたぞ――ッ、政宗様」

 程なくして「でかした」と声が響き、背後から政宗が草を選り分けてくる音がしてきた。

 ――随分と遠くまで探されたようだ。

 がさがさと音はするのに、中々近づかない。小十郎は毬を手に抱え、ふと視線を上げて固まった。

「これは…――何てこった」

 顔を上げて見た光景には、転がっている稲荷の姿がある。しかもその奥の――小さな社の燭台などは、無残にもばらばらと下に落ちてしまっている。

 ――原因はこれ以外に考えられねぇ。

 手に抱えた毬を見下ろし、小十郎は慌てて稲荷を起した。神仏の祟りが政宗に向かっては堪ったものではない。小十郎はそのまま奥へと足を進めて、せっせと社の体裁を整えていく。そして粗方片付けると、手を合わせた。

 ――すまねぇ…これで勘弁してくれ。

 小十郎が手を合わせていると、背後でがさりと音を立てて政宗が現れた。

「Hey,此処だったか」
「政宗様……」
「お、稲荷。って、お前供え物もねぇのか?」

 手に毬を持っている他は小十郎は何も持っていない。軽く頷くと、ちょっと待ってろ、と政宗は言いながら姿を消し、再び駆け込んでくる。すると手には小さな包みがあった。

「それは、政宗様の昼餉ではございませぬか…」
「いいって。どうせ、お前と食べるつもりなんだし」

 ――俺はそんなにいらねぇよ。

 かかか、と歯を見せて笑う政宗を見上げ、小十郎はじんわりと胸元が熱くなった。隣にすとんと腰を下ろして政宗が包みを開いて、中から握り飯と、水菓子を取り出して供える。

「ここ、荒らしてしまったんだろ?すまない」
「政宗様…」

 静かに手を合わせる政宗を横目で見てから、小十郎は拍手を打った。

「小十郎、どうせだから何か願い事してみたらどうだ?」
「は?願いでございますか…?」

 ――俺は願ったぜ!

 政宗は楽しそうに肩を寄せて突いてくる。その場の雰囲気に流されて、小十郎は再び手を合わせると静かに瞼を落とした。

 ――どうか、政宗様がお健やかでありますよう、そして…

「おい、まさか俺のこと願ったりしてないだろうな?」

 どき、として瞼を押し上げると、政宗が覗き込んできていた。いけませんか、と答えると、政宗は盛大に「駄目だ」と云う。

「自分の事、何でもいいから願えよなぁ」
「しかし私には、貴方様意外には…」
「だからだよ、お前、自分の幸せ考えてもいいんだぜ?」

 唇を尖らせて政宗は肩を寄せる。「仕切りなおしだ」と政宗に言われ、小十郎はしぶしぶながら再び手を合わせた。

 ――まったく…政宗様を思うのは、一重にお慕いしているからだと、どうしたら気付いてもらえるのだろうか。

 胸内で渋ってから、小十郎は当たり障りないように、健康祈願をしておく。そして瞼を上げると政宗は「何願った?」と楽しそうに聞いてくる

「健康を祈願しておきました」
「爺かよッ!」

 ――つまらねぇなッ。

 政宗が背中を伸ばして立ち上がる。その後に続こうと膝を伸ばし、手に毬を持つ。そして二人で社に背を向けた。

 ――ケーン。

「――――…?」

 前を行く政宗の背を眺めていた時、ふと背後で狐の鳴く声が聞こえた気がした。肩越しに小十郎は振り返ったが、其処には小さな社があるだけだった。











 昼間はばたばたと慌ただしく過ぎていく。小十郎が頭を垂れて、彼に退室の挨拶をしたのは、既に翌日へと刻限を変える頃合だった。

「随分と時間が経っちまって…」
「いえ、お気に召されるな、政宗様」

 昼間に身体を思い切り動かして、その後執務に取り掛かり、気付けば酒を呑み始めていた。昼間の疲れも相まって、政宗は今にも瞼を取り落としそうになっている。

「ん〜…お前、今日は此処にいろよ」
「それはご容赦くださいませ」
「何だよ、釣れねぇなぁ…」

 ごろ、と政宗は転がって小十郎の膝に頭を乗り上げる。昔からこうして引っ付いて来るのは変わらない。

 ――いや、前よりも頻度は落ちたか。

 小十郎が手元にあった自分用の盃を傾けて、膝に乗っている政宗の頭に手を伸ばした。
 ゆるゆると撫でながら、徐々に吐息を吐いて瞼を落としていく彼を見下ろしていると、胸元がざわざわと鳴り始めて来る。

 ――生殺しは、辛いものだなぁ。

 目の前に、触れられる位置に好いた相手がいる。そして彼は自分に気を許している。だが、此処から一歩も踏み込めない――踏み込んではいけない。

 ――自然と伝わればいいのに。

 口にした途端にこの関係を崩されてしまったり、緊張されてしまったりするのは嬉しくない。だから自然と彼が気付いてくれれば良いのにと、ずるいことを考えてみる。だがそんなのは願っても叶うべくもない。

「ん…小十郎…――」

 眠気で舌足らずになっている声が、甘ったるく耳朶を擽っていく。身構えていないと、ぞくりと背筋を震わすほどの甘さに、小十郎はただじっと平静を装うだけだった。

 ――お慕いしております、政宗様。

 胸内で呟くと、膝の上の政宗が薄っすらと瞳を開けた。一度は退室を願い出ているのに、彼に引き止められてどうも出来ずにいる小十郎に、政宗は向きを変えると腰にしがみついてきた。ふと思いついたように、政宗が小声で問う。

「なんか…今、言ったか?」
「は?」

 だが小十郎には政宗の呟きは聞こえていなかった。膝を占拠されているのを――このままでは必死に保っている理性も怪しいものだ――だから、どうにかしたかった。

「政宗様、寝るのでしたら寝所で」
「此処が良い…」

 ぐりぐりと腹に政宗の額が押し付けられる。小十郎は只管、平常心を保とうと必死だった。ぐ、と強く彼の肩を掴むと、一気に彼を起させる。

「何時までも子どものような事を」
「お前の側が、良いんだ…」

 政宗は瞼を閉じたまま、ぐらぐらと揺れて、とん、と小十郎の肩口に額を押し当てる。正面から――座ったままで抱き合うような体勢に、小十郎はぎゅっと眉根を引き絞ると、政宗を両腕で抱え上げて寝所へと連れて行った。











 昨夜は本当に危なかった、と額を押さえながらも小十郎は政宗の元へと足を伸ばした。だが彼の姿は未だに其処になく、嫌な予感を携えたまま寝所へと向かう。

「政宗様、おはようございます」
「――――…」

 中からの応答はない。やはりと思いながら中に踏み込むと、頭まで布団に潜り込んだ政宗がいる。すうすう、と穏やかな寝息だけが聞こえてくる中で、小十郎は溜息をついた。

 ――いつもの事だ、とりあえず落ち着け。

 すう、はあ、と深呼吸してから、そっと布団に手をかける。ゆっくりと布団を引き下げていくと、中から瞼を閉じたままの政宗が現れる。
 気持ちよさそうに寝息を立てる姿は、まだ稚い少年のようで、ずっと眺めていたくなるものだ。

 ――なんと愛らしい。

 常とは変わり、この瞬間だけはどうしても出合った時の――梵天丸だった時の彼に姿が重なってくるほどに、あどけない。

 ――この寝顔を守りたいと思うのだが。

 布団に包まっていたせいで温まっている頬に手の甲を近づけ、小十郎は口元に笑みを浮かべた。思わず微笑んでしまうほど、平和な光景が広がっている。
 だがいつまでも寝かせておく訳には行かない。小十郎が、そろそろ起すか、と口を開きかけた瞬間、青灰色の瞳が揺れた。

「――――…ん、小十郎?」
「――――ッッ」

 ――どきん。

 強く鼓動が跳ねた。どきどき、と脈打つ鼓動を悟られないように、ぐ、と咽喉の奥に言葉を飲み込む。
 のそり、と身体を起こした政宗は軽く左目を擦ると、その場に座ったままでぼんやりとしている。

 ――なんと無防備な。ああもう、こんな政宗様のお姿を他の誰にも見せたくねぇ。

 ぐぐ、と拳を握りこんで胸内で叫ぶ。すると、びく、と政宗が肩を揺らして瞳を瞬いた。

「如何されました、政宗様?」
「あ…?え……――?い、いや…」

 ぱちぱち、と瞬きを繰り返しながら、驚いたように政宗が振り仰ぐ。だが気にしないようにしてそのまま彼の起床を促がしていった。
 だがその日は、政宗は幾度となく肩を震わせて、辺りを見回したりと挙動不審な瞬間があった。
 少し遅れての朝稽古の間、目の前で政宗が流れるような動きで剣を動かしていく。
 それにあわせて、ぱらぱら、と時折汗が飛び散る様が、なんとも艶かしい。襟首から覗く首元は、うっすらと色付いている程だった。

 ――なんとも麗しい剣捌きか。ずっと見て居たいくらいに麗しい。

 そう思うのも事実だ。だがそれよりも、彼の肢体がやたらと艶かしい事にも気を削がれてしまう。どこからこの色気を養ってきたのか、不思議でならない。

 ――触れてみたいものだ、その肌に。

 不意にそんな風に思いながら、手を止めた政宗に手ぬぐいを差し出す。

「――…ッ!」
「お見事です、政宗様」
「お、おお……――ッ」

 手ぬぐいを受け取りながら、政宗がほんのりと眦に朱を乗せ始めていく。

「――?本当に、如何されました?なにやらいつもと様子が…」

 ――よく見ればお顔の色が、少々赤いような…。

 胸内で彼の表情を淡々と観察していくと、政宗は再び頬を染めて――口元に手ぬぐいを宛がって、ふい、とそっぽを向いた。

「な、何でもねぇよッ!」
「はて?」

 ――本当に如何なものか。お加減が優れないのだろうか。しかし…どうしてこんなにも可愛らしいのか、抱き締めてしまいたく…いやいや、此れは考えないようにしよう。

 隅に引っ込む政宗の背中を見送りながら、そんな風に考えていると、くる、と政宗が口を開いたままで振り返った。小十郎は彼の視線に小首を傾げていたが、直ぐに次の手合わせに呼ばれてしまう。

「なぁ…今のお前、聞こえたか?」
「何がでございますか」

 政宗は隅に座りながら、側にいた家臣に聞いてみた。彼は政宗の問いに、政宗のほうへと視線を向ける。

「その…小十郎の」
「片倉様は何も話しておりませんぞ」
「そう…だよな?」

 政宗がたどたどしく答えるのを聞きながら、彼は不思議そうな顔つきをした。すると政宗は口元に手を宛がって、ふむ、と考えこんでいった。











 一日が過ぎるのは早いもので、気付けば既に夕餉を済ませていた。食後にのんびりと茶を啜っていると、政宗が足を崩してきた。ちら、と素足が覗いて――小十郎は自然と視線を反らした。すると政宗が急に裾を押さえて、ふう、と困ったように眉間に皺を寄せた。

「小十郎…お前…――」
「はい?」

 ――今日の政宗様は、どこか可笑しい。

 そういえば今日はどこか可笑しかった。急に手にしていた書物を取り落としたり、書いていた書状の上に筆を滑らせたり、途端に立ち止まってしゃがみ込むこともあった。

 ――やはり具合が…

 小十郎が思考をめぐらせていると、政宗は後頭部をかしかしと掻いてから、扇を手に――手持ち無沙汰に、とんとんと動かしていく。

「お前さ、俺のこと…――」

 ――な、何を急に仰るのか!まさか…まさか、まさか、いやそんな事はありえねぇ。

 咄嗟の政宗の言葉に、思わず何の冗談かと背筋が伸びた。こんな風に目の前で、頬を染めて、確かめるように問うて来るのは、告白意外に考えられない。だが焦りは禁物だ――小十郎は至って平静を装いながら、政宗の言葉の続きを待った。

「俺のこと、好きなの?」
「それは臣下でございますから」

 小十郎は頭をいささか垂れながら、静かに答えた。

 ――なんて罪作りな聞き方をされるのか!

 内心では嵐のように動揺が駆け巡る。だがそれを政宗に悟られてはならない。政宗はそれを知ってか知らずか、少し開いた扇でぱたぱたと自身のほうへと扇いだ。

「や、そういうんじゃなくてよ」
「他に何かございましょうか」

 顔を上げて政宗の様子を窺う。どうしてそんな事を聞いてきたのか、不思議でならなかったが、小十郎は政宗の青灰色の瞳が動くのをじっと見つめた。

 ――お慕いしておりますとも。もうずっと…

 本心はそう応える。だが口には出来ない。すると目の前で何かに弾かれたかのように、政宗が肩を微かに揺らすと、かぁ、と眦を染めた。

「――――…ッ!」
「政宗様、何かご不満でも?」

 ――言えたら、どんなに良いか。受け入れて貰えたら、どんなに愛し尽くしてみせようか…所詮は叶わぬこと。

 自分の返答が気に入らなかったのかと、ただ固唾を呑んで窺うだけだ。だが胸のうちの嵐は正直なもので、切なくて溜まらない。この気持ちを開いて見せられたら、どんなにか良いものか。

 ――パチン。

 政宗が開いていた扇を勢い良く閉じた。そして片膝を立てて、一歩前に進み出る。

「お前、さ…ああもうッ!お前、俺のこと好きなのかよ?どうなんだよッ?」
「だからそれは…」

 ずい、と身を政宗が寄せてくる。真剣な眼差しが其処にある――滑らかな肌に、嵌め込んだ宝石のようだと思ってしまうほど、彼の瞳は吸い込まれそうなくらい綺麗だ。その瞳を見返して、小十郎はどきどきと軽く波打つ鼓動を押し込めていく。

「――――…」

 ――好きです。好きです。好きです。

 何度も胸の内で繰り返す。だけれども、それを伝えられないのがもどかしい。出来るのなら、今すぐ手を伸ばして、その滑らかな肌に滑らせて、彼の香りをかぐように抱き締めてしまいたい。
 言えずに、ごく、と咽喉を鳴らすと政宗が手を伸ばして小十郎の肩に手を置いた。

「Shit!俺はッ!」
「――――…」
「俺は、お前のこと、兄のように慕ってきた」
「――――…」

 言いながら、どこか泣きそうな――語尾が震えてくる。そして膝をすすめてくると、いつもの強気な彼とは裏腹に、何とも――幼子のように――弱弱しく、声を震わせる。

「だけど、それ以上に…それ以上の関係になりたい」
「政宗様」

 ――これは夢か?

 瞬きすら忘れてしまうほどに、呼吸がこの瞬間に止まるかとさえ思った。小十郎が動けずにいると、政宗はそのまま小十郎の膝の上に乗り上げ、首にしがみ付いてきた。

「夢なんかじゃねぇよ」
「政宗、様…それは、この小十郎めを…――?」
「そう言ってるじゃねぇかよ」

 確認の言葉は、震えていた。こんな風に関係が変わるなて、想像もしていなかった。小十郎は肩口に擦り寄ってくる政宗を抱き締めてから、その耳元に「お慕いしております」と搾り出すように告げていった。










 がたがたと縺れ込む様にして動くと、後はただ強い湿度の中に落とされていくようなものだった。

「ん…――ッア、…ッ」

 ――なんてお姿だ。

 小十郎の膝の上に乗り上げて、背中を反らせる政宗は、ぎゅう、と瞼を引き結んでいる。腕は小十郎の首に係り、時折強く引き寄せられると、小十郎の肩口に彼は噛み付いていった。

「は、はぁ……」

 ――凄い、手に吸い付くみたいだ。

 下肢が濡れた音を立てている。自身と彼の陰茎を片手で擦り合わせていくと、ぐちゅぐちゅ、と濡れた音が響いていく。手の内がどれも熱くてならない。

「小十郎…おま、え…――口に出して」
「何でしょうか…」

 ――ぬちゃ…にち、ぐち…

 指先を先の割れ目に突きたてると、ビクン、と政宗の身体が揺れ、強くしがみ付いてきた。平時より高い声音が小十郎の鼓膜に突き刺さる。

「嫌っ、そこ…嫌、だ――、ァッ」
「え…――ッ」

 掠れた声で腰を動かしながら、ぶるぶると政宗が震える。思わず小十郎が陰茎を弄る手を止めると、今度はくわっと顔を起して政宗が涙目になった。

「馬鹿ッ!止めるなッ」

 ――だが嫌だと。

 面食らって固まると、政宗は「はあ」と熱い吐息を吐いた。そして自分から腰を揺らして小十郎の手に摺り寄せてくる。

「そこ…イイ、から…――、止めるな」
「はい…」

 ――意外といやらしい。

 自分から動く腰に、ぺろ、と舌なめずりをしてしまう。そんな風に思っていると、うわあ、と政宗が真っ赤になりながら額を肩口に押し付けてきた。

「ふ…――っ」

 ――熱いな。手に調度良い触り心地で気持ちいい。

 うっとりとしてしまう程、焦がれ続けた相手の肌だ。ずっと触れていたくて溜まらなくなって行く。小十郎は片手を背後に回し、すすす、と政宗の臀部に沿って動かすと、中に潜んでいる後孔に指先を触れさせた。

 ――にゅる…

 互いの先走りで其処までもが濡れている事に気付いて、嬉しくなってしまった。其処に自分のを押し込めて、揺さ振って、深く深く沈みこんでしまいたい。

 ――最初はあまり無理はさせられねぇ。

 だが指先を潜り込ませると、びくびく、と政宗の身体が弛緩した。

「う、あ…ッ、んん…――ッく」
「政宗、さま……」
「指…、あぅ…――っ」

 言葉にならないまでも、指が入ってくるのを感じているのが解る。ぐにぐにと入り口で動かしていた指先を中にもぐらせて、内膜を引っ掻く――すると、政宗はひくりと咽喉を振るわせた。

「あ…い、達…――く」

 途切れた言葉の後に、ぶる、と政宗の身体が強く震えた。重ね合わせていた陰茎から吐精し小十郎の手を濡らして行く。後ろに突き立てた指先は、ぎゅう、と締められていった。

 ――此れが俺のだったら…やべぇな、想像するだけで達きそうだ。

 はふはふ、と荒い呼吸を繰り返す政宗を抱き締めながら、小十郎がそんな風に思っていると、涙目になって政宗が顔を起した。

「うう…っ、小十郎、お前、黙れッ」
「はい?」

 何も云っていなかった筈、と瞳をぱちくりとさせると、誤魔化すように政宗が唇を重ねてきた。そして小十郎の――互いの陰茎に絡まっている指を解くと、小十郎のを掴みこみ、自身の後孔へと宛がう。

「あ、ああもう…――ッ!良いから、さっさと」
「しかし…――」

 小十郎が最初から無理はさせられない、と慌てるのを押し留めて、政宗は足を絡めてくる。ぱたぱた、と汗に濡れた髪から、汗が肌に吸い込まれるように落ちていく。

「良いって、云ってるだろ」

 ふふ、と笑う政宗の頬に口付けて、そのまま唇を合わせると、じんわりと胸が熱くなってきた。少し前まではこんな日が来るなんて思ってもいなかった。

 ――夢みたいだ。

 そう感じると、小十郎の視界が潤んでくる。泣きたいくらいに幸せでどうしようかとさえ思った。

「夢、なんかじゃねぇ」

 政宗は笑いながら腕を引き寄せる。小十郎は彼の背に手を宛がって、背後に引き倒すと、ぐ、と足を抱え上げた。

「夢の、ようでございますよ」
「俺だって…本当はずっと…お前に、触れて欲しかった」
「政宗、さま」

 ――なんと愛しい…愛しい、お人だ。

 口付けを繰り返しながら、そう胸の中で繰り返す。すると政宗は腕も、足も絡めたままで、早く、と強請っていった。










 翌朝、胸の中に政宗を閉じ込めたままで朝を迎えると、政宗は真相を教えてくれた。その直後に小十郎が懐剣で「腹切って詫びますッ」と叫んでいくのを、政宗は笑いながら止めていった。
 翌日以降、小十郎の心裡が――思っていることがそのまま政宗に伝わることはなかった。


















りん様のリクエスト
戦国小政で小十郎が何らかの原因で政宗さま大好きな気持ちがだだ漏れになる話。ありえない程小十郎に口説かれてメロメロになる政宗さま。R18